第40話 闇の牙?
こんな場所で偶々誰かが近くに来て、そしてその誰かが、偶々近くで強力な魔法を使った。
そんな偶然はありえない。
まあ極論でいうならゼロではないのかもしれないが、考慮に値しない確率なのでそれは排除しておく。
俺は此方に対する攻撃的な行動と判断し、【ズル】を発動させる。
相手の使った魔法がどんなものであろうと、不意打ちである以上すべて無効化だ。
更に言うなら、こそこそ身を隠して此方の様子を伺う様な卑怯な真似も。
「ぬ……」
「なんだっ!?」
「これは……」
5人の男達が、俺の目の前に姿を現す。
口元を隠した、軽装の前衛っぽい奴が4人と。
ローブを身にまとった魔法使いっぽい奴が一人だ。
「——っ!?」
「ひぇっ!?」
突然現れた男達にポワンが悲鳴を上げ、監督官が目を細めた。
流石、金級の監督を任されるだけある。
黒尽くめの彼は、動揺を見せる事なく静かに得物を構えた。
「俺達に何か用か?」
「貴様、何をした?」
禿げ頭の男が口を開く。
たぶん、こいつがこの集団のリーダーだろう。
こういう場合、口を開くのは上の人間であるのがお決まりだから。
英雄譚系の小説では、だが。
まあ別に違っていても困らないから、間違ってても問題ないが。
「それはこっちの台詞だ。人の後を追ってきて、どういうつもりだ」
追ってきた証拠はない。
が、状況的にまず間違いないだろう。
「我らの追跡に気づいていた訳か」
「まあな」
まあ実際は、一ミリたちとも気づいていなかった訳だが。
すなおに言うのもなんだから、ちょっと格好つけてみた。
因みに、探索中はずっと【ズル】をオンにしていた訳だが、その範囲の外で痕跡を追う形の追跡をされた場合、スキルには引っかからない。
「愚かな奴だ。気づいていたのなら、とっとと逃げればよかった物を。こんな場所で休憩を取るなど、間抜け極まりないな」
「こんな場所じゃ、逃げきれるかわからないからな。だから仕掛けてきやすい場所で休憩を取って、お前達を誘ったのさ」
そう言って俺はにやりと笑う。
もちろんただのハッタリである。
追跡には一切気づいていなかった訳だし。
「なるほど……自信があったからここで待ち受けていた訳か。それにしても……」
男がローブの男に視線を向ける。
恐らくさっき感じた魔力は、ローブの男の物だろう。
男がローブの男に目を向けたのは、発動させた魔法はどうなったって感じだろうと思われる。
「く……なぜかは分からんが、呪術は不発に終わった」
「なんだと?ふん、大口をたたいておいて使えん奴だ」
どうやらあの魔力は魔法ではなく呪術だった様だ。
となると、ローブの男は闇の牙関係か?
いや、そう決めつけるのは早計だな。
別に奴らだけが呪術を使う訳ではないからな。
取りあえず、【ズル】でローブの男の呪術を封じておいた。
「どうやったのかは知らんが、あの男が何かしたのだ。さっさと奴を殺せ。我らの狙いはポワンと満月花だけなのだからな」
やはり狙いはポワンさんの様だ。
俺には狙われる心当たりが……まあ全くない訳じゃないが、たぶん闇の牙には情報は行ってないはず。
それに監督官の男も、確率は低かったからな。
危険な状態の人間に、ギルドも監督を任せたりはしないだろう。
にしても、満月花も欲しがってるって事は……まさか死者蘇生の研究が狙いなのか?
だとしたら、頭がおかしいとしか思えない。
そんなもん絶対成功する訳ないだろうに。
「ぺらぺら目的をしゃべるのはどうかと思うけど?」
「同意だな。まあだが問題ない。なにせ、ポワン博士以外はここで死ぬんだからな」
覆面の男が、剣を抜刀する。
「これはイレギュラーだ。手伝おう」
監督官が、俺の横に並ぶ。
どうやら手助けしてくれる気の様だが――
「依頼にはイレギュラーがつきものですよ。それに対応するのも、冒険者としての腕の見せどころじゃないですか?」
俺はそれを遠慮する。
向うから言い出した事ではあるが、頼んだら減点とかも十分あり得るからな。
どんな形であろうと、イレギュラーに対応できず、本来いない筈の監督官の助力を借りたって事で。
少々考え過ぎな気もするが……
まあ一人で対応できるのだから、そうしておいた方が無難だ。
「なるほど、腕には自信があるという訳か。なら、とくと拝見させて貰おう」
監督官が下がる。
「お前たちの相手は俺一人で十分だ。かかって来な」
さて、どうするか。
普通に戦っても、問題なく勝てるだろう。
けど、こういう湿地帯で水びしゃになって戦うのは楽しい物ではない。
「ふざけた事を!地獄で後悔するがいい!」
覆面の男達が襲い掛かって来る。
よし、【ズル】を使って楽に倒すとしよう。
そう決めた俺は、スキルを発動させる。
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