第39話 しょうがない
「おお、これぞまさしく満月花!」
探索は3時間程で終わる。
かなり早く終わったと言っていいだろう。
とは言え、まだ仕事が終わったわけではない。
満月花は満月の夜にだけ咲く花だ。
その蜜も、咲いてから収集しないと効果が半減してしまう。
なので夜になるまでここで待機する事になる。
「お疲れ様です」
「……」
ずっと走っていた黒尽くめの男に声をかけたが、無視されてしまう。
物凄く不機嫌そうだ。
まあこんな湿地帯を3時間も走りまわらされたのだから、機嫌がいい訳もないだろう。
俺が気にする事でもないが……
監督する人間が、テストを受ける人間の足を引っ張るとか論外な訳だしな。
「どうぞ、休憩なさってください」
魔法で結界を張って魔物が近づけない様にし、更に足元のぬかるみを魔法で凍らせて固め、その上に撥水性の高い厚めの敷物を敷く。
これでぬかるみの酷い湿地でも座って休憩が取れる事が可能だ。
まあ長時間座ってると、若干おしりが冷えるという欠点もあるが。
「いやー、シビックさんは凄いですねぇ。こんなに色々と魔法が使えて」
「幼い頃から訓練していましたから。貴方もどうです?」
「……」
一応黒尽くめの男にも声をかけたが、無視されてしまう。
まあ最初に自分は空気だと思えと言われているので、それを徹底しているのだろうと思う事にする。
あ、因みに彼の名前は知らない。
教えて貰えてないので。
「いやー、毎月シビックさんに依頼を受けていただけるとありがたいんですけどねぇ」
この依頼は、手間に反してびっくりするほど安い。
なので、テスト以外では誰も受けたがらない依頼となっていた。
まあ俺は飛行魔法があるからそれ程苦労はしないんだが、いかんせん拘束時間が長いのがネックだ。
行き帰りだけで4日もかかってしまうからな。
全体で5日。
なのに報酬は1日で終わりそうな依頼と大差なし。
そりゃ誰も受けたがらんわ。
「ははは、まあ機会がありましたら」
別にお金は必要じゃないけど、だからって他人に良い様に利用される気はないので、適当に社交辞令でお茶を濁しておく。
「もう少し予算が出るといいんですけどねぇ。上の連中はなんというかこう、ロマンが足りてないんですよ。死者蘇生は全人類の夢だって言うのに、鼻っからできる訳がないと決めつけて」
満月花は研究のための素材で、ポワンさんのしている研究は死者蘇生に関わるものだった。
死者蘇生と言うと凄い研究の様に聞こえるが、一般的に、そんな物は叶う訳がないというのが共通認識だ。
そのため、彼の研究に対する資金繰りは余り宜しくない。
ロマンを追いかけるだけの無駄遣いだと、彼の所属する研究所から思われているためだ。
そのため万年資金不足で、満月花の収拾依頼の費用捻出にも四苦八苦しているという訳である。
まあこればっかはしょうがないよな。
俺だって死んだ人間が生き返るだなんて、微塵も思ってないし。
むしろ多少でも研究資金が融通して貰えているだけ、温情ともいえるレベルだ。
「この研究が成功すれば、世界の常識が覆るというのに。まったく、常識に捕らわれた凡人というのは――」
ポワンさんの愚痴、そしてそこから派生して研究の話が続く。
延々と。
ちょっと、というかかなりと辟易しつつも、俺は話に相槌を打っていたのだが――
「すいません、ポワンさんちょっといいですか」
3時間ぐらいたっただろうか。
日が傾きだした位で、まだ満月花の開花までには時間がある。
本来ならそのまま開花するのを待つだけだったのだが、問題が発生した。
「どうかしましたか?」
ちらりと黒尽くめの男へと視線を向けるが、特に反応はない。
なので、これはこの前の様なテストではないのだろうと判断する。
まあそもそも、依頼遂行中に、それを妨害するようなテストなんて挟む訳もないよな。
「招かざる客が来たようです」
俺はそう告げ、気配――正確には、魔力の発生源へと視線を向けた。
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