第36話 人間性
――王都、人気のない路地裏。
「失敗して逃げ帰って来ただ!この馬鹿やろう!」
少年が大男に蹴られ、吹き飛ぶ。
蹴られたのは、先ほど俺の財布をすり損ねて逃げ出した子だ。
「ご、ごめんなさい。父さん……」
虐待されている子供が親に盗みを指示され、失敗して更なる虐待を受ける。
そういう構図だろうと思われる。
彼の事が気になって後をつけてきたら、この場面に出くわした訳だが……
俺は取り敢えず、見えない位置から様子を伺いながら二人を観察する。
「なんでこんな簡単な事も出来ねぇんだ!このクズが!」
「あうぅ……」
男がさらに少年に暴行を加えるが、俺は物陰からそれを黙って見つめる。
飛び出す気はない。
止める気もない。
え?
助けてやらないのか?
ああ、助けない。
何故なら、助ける必要がないからだ。
「ぎゃっ!?」
更に暴行が続く。
遂に痺れを切らしたのか、蹴り飛ばされた少年が俺の元に転がって来る。
うん、この場所まで飛んでくるとか無理在り過ぎだ。
「あ、あぁ……助けて……」
少年が今俺に気づいたかのように、俺に助けを求めて来る。
そんな彼に、俺は優しく声をかけた。
「大変ですね。お疲れ様です」
と。
「……気づいてた?」
「ええ」
「はぁ……なんだよ。それならもっと早く言ってくれない?ったく、無駄骨じゃないか」
何事もなかった様に少年が立ち上がり、服についた誇りを払う。
大男に殴られまくっていたが、その体に怪我の後は一切ない。
ああ、襟元から見えた痣は多分特殊なメイクだ。
「なんで気づいたんだ?」
大男が、頭をわしゃわしゃかきむしりながらやって来る。
「おいらの演技は完ぺきだったと思ったんだけどなぁ……」
「逃げ足ですよ。あれだけ分かりやすくスリに気づかせておいて、人込みを抜ける逃げ足がいくら何でも完璧すぎでしたから」
「あちゃー、そこに気づいちゃう?」
「おいポック!完全にお前のミスじゃねーか!」
「しょうがないだろ。人込みが多くて、避けるのについ素が出ちまったんだから。だいたい、その程度で気づくこいつがおかしいだけだっての」
お男に睨まれた少年――ポックが肩を竦める。
見た目は少年だが、たぶん彼はホビットなのだろうと思う。
ホビット人間と見た目はほぼ同じだが、成長しても人間の子供のような姿をしているからな。
「まあそれ以外にも、殴る時明らかに当たらない様に殴ってたりとか。それなのに大げさに彼が吹き飛んでたりと、結構突っ込みどころ満載でしたよ」
「なんだよ。ゴーズもバレバレだったんじゃんんか」
「ちっ……腕が立つとは聞いてたが、まさかそこまで見抜いてきやがるとはな……」
「一応確認しときますけど……これって金級冒険者用のテストですよね?」
タイミング的に、こんな臭い芝居を見せられる理由がそれしか思い浮かばない。
逆にそれ以外だったらびっくりである。
「ああ。金級は、それ相当の人間性も求められる。だから、それを確かめるテストだったんだが……」
「見事にバレちゃったからねぇ……」
そういうテスト何だろうとは、何となく察してはいた。
なので、気づかないふりで乗ってもよかったんだが……なんか、それはどうなんだって気分になってしまったんだよな。
人間性のテストで、明らかに回答を知って挑むのは違うなと思って。
「テストは……ま、合格でいいだろう。途中で気づきはしたが、追ったのは相手の事を思っての事な訳だからな」
「そうだね。それに……気づかないふりで簡単にパスする事も出来たのを、態々正直に伝えてきたってのもプラスだしね」
「そうですか」
テストは通過扱いの様だ。
しかし……ギルマスは3つとか言ってたけど、見事に裏のテストを用意してたな。
そう考えると、ここからも気を付けた方がよさそうだ。
「あ、言うまでもないけど……このテストは絶対口外しないでくれよな。こういうの、バレてると意味が薄れちまうからさ」
「分かりました」
あると分かっていたら、テスト期間中だけ良い人ムーブする奴だらけになってしまうだろうからな。
それではテストの意味がなくなってしまう。
「にしても、お兄さんとんでもないスキル持ってるね?転移系?」
「おいポック!人様のスキルの詮索してんじゃねぇよ!」
「おっとそうだった。オイラとした事が、興味が湧きすぎてマナー違反だったね」
能力の詮索は嫌われる。
なので、冒険者は必要ない限り相手の能力について詮索しないってのが暗黙の了解になっていた。
「じゃ、ま、俺達は戻るわ。引き続きテスト頑張んな。まあ、お前さんなら問題なく合格しそうな気もするがな」
「ははは、そうだね。なにせおいら達の演技がばれたのは初めての事だからね」
二人が去って行く。
「初めて……か。それは流石に怪しい気がするけど……」
簡単に気づかれるかどうかは兎も角、金級を受かるレベルの人間なら、彼らの演技を見抜いてもおかしくはない。
なので、気づかないふりをしてパスした人間もいるはずだ。
「ま、俺が気にする事じゃないか」
俺も裏道から出て、大通りに戻った。
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