第24話 呼び出し
「いるなら何故さっさと出て来ない!」
ドンドンうるさいので扉を開けると、イーグルが不機嫌そうに怒鳴り声をあげる。
騎士とは思えない酷い態度である。
どうも、何か凄く嫌な事があったって感じだな。
その苛立ちを俺にぶつけているのだろう。
まあ取り敢りあえず――
「間に合ってます」
失礼な態度に少しイラっと来たので、扉を勢いよく閉めてやった。
勿論施錠も速攻でかける。
「あ!扉を閉めるな!」
慌ててガドアノブをチャガチャ回し、イーグルがキャンキャンと叫ぶ。
安普請の建物ならいざ知らず、造りのしっかりしている貴族の客館のドアノブを奴の腕力でこじ開けられる心配はないだろう。
まあ世話になってる貴族の建物を騎士が壊すとか論外なので、仮に出来ても流石にやらないとは思うが。
「俺は大まじめだよ。礼儀のなっていない様な奴と交わす言葉はない」
俺は別にイーグルの部下じゃないからな。
不機嫌な奴のストレスの矛先になってやる謂れなどないのだ。
態度を改めるまで、ちょっと放置しておく事にする。
まあケインさん達なら、少しぐらい遅くなっても怒ったりはしないだろう。
「くっ!ふざけるな!カナン男爵様がお前をお呼びなんだよ!」
「カナンの領主が?」
てっきりペイレス家の人達からの用事だと思ったのだが、どうやら違った様だ。
しかし解せん。
カナン男爵はこの館に到着した際、遠目にちらっと見たぐらいで、特に俺と面識のない人物だ。
セーヌ達ならともかく、カナンの領主である人間が態々俺を呼び出す理由などないはずだが……
まさか、元ジョビジョバ家の人間だと知って接触しようとしてるとか?
いや、それはないな。
家で死んだ扱いになってる俺と接触したって、基本良い事はない。
何より、いくら親戚筋とはいえ、セーヌ達が俺の身元をべらべら勝手に他人に話すとは思えなかった。
「そうだ!だから早く出て来い!」
「やれやれ」
嫌がらせの時間稼ぎは止める。
まあ客館の一室を好意で使わせて貰ってる相手でもあるし、よく知らない貴族を待たせるのもあれだからな。
扉を開けて外に出ると、イーグルの奴が睨みつけて来た。
「まったく。手間をかけさせるな」
「どうでもいいけど、お前は護衛団の副長だろうに?なんでそのお前が、こんな使いっぱしりみたいな真似をしてるんだ?」
そもそもペイレス家の騎士がって部分もあるが、そこはセーヌ達もその場にいるんだろうと予測できる。
そういう分り切っている事を、一々質問する気はなかった。
「サイモン団長の命令だ……出なければ、俺が態々お前を呼び出しに出向いたりする物か」
サイモンさんか。
護衛団の長の命令なら、まあ断れないわな。
多分無理やり押し付けられたから、こいつの機嫌が悪いのだろう。
態々イーグルを寄越したのは、嫌いな人間と接する事で人間的成長でも促そうって魂胆だろうか?
だとしたら、全く効果は無さそうな訳だが。
出来の悪い部下を育てなきゃならないから、あの人も大変だな。
「で?どこに行けばいいんだ?」
「ついて来い」
客館を出て、訓練場の様な場所を抜ける。
屋敷は敷地面積を含め、辺境の男爵家にしてはかなりの規模と言える物だ。
勿論上位貴族であるジョビジョバ家やペイレス家に比べれば小さくはあるが、男爵家という家格を考えると、護衛としてやって来た従者三十名を丸々住まわせる兵舎を持ち合わせているだけでも大した物だと言わざるを得ない。
「お入りください」
裏口から屋敷に入った俺は、大階段を昇った先に案内される。
中は広々とした会議室の様な場所で、ケインさんにセーヌ、それにサイモンさんを含めた6名が席についていた。
恐らく、一番奥に座っているムキムキの中年男性がこの屋敷の主、カナン男爵だろう。
他の二人は、見た目からお抱えの騎士と魔法使いだと思われる。
「シビックを連れてまいりました」
「ああ、イーグル君。ありがとう」
「お初にお目にかかります。カナン男爵」
失礼のない様、丁寧にお辞儀しておいた。
これでも元貴族だからな、礼儀作法は弁えている。
「よく来てくれた。私はカナン領を収める、グレート・カナンだ。ここに君を呼んだのは他でもない。実は君に頼みごとがあってな」
「頼み事……ですか?」
「うむ。カナン領の治安に関する重要な事だ。是非君に引き受けて貰いたい」
「取り敢えず、お話をお伺いしても宜しいでしょうか」
カナン領主に仕える騎士なら、内容など関係なく即了解していただろう。
彼らは主の為に命を賭けるのが仕事である以上、断るという選択肢自体が無いからだ。
だがこっちは只の冒険者である。
話も聞かず、良く分からない仕事にオッケーなど出す訳にはいかない。
当然返事は話を聞いてからだ。
「ふむ、それもそうだな。では、空いている席にかけてくれ。説明しよう」
セーヌがここにどうぞと、自分の直ぐ隣を勧めて来た。
俺が元貴族だと分かっているからこその行動だろう。
まあ貴族席って奴だ。
チラリとイーグルの方を見ると、そんな事を知らない彼は、此方を睨んでこめかみをひくひくさせていた。
凄く分かりやすい反応だ。
にも拘らず、セーヌはそんな彼のあからさまな様子に全く気付いていない様だった。
ひょっとして彼女、天然なのだろうか?
イーグルも厄介な相手に惚れた物だと、少し同情する。
身分の差所か、自分の気持ちにすら中々気づいて貰えていない訳だからな。
ま、他人の色恋なんざどうでもいいか。
俺はセーヌに勧められた席に着く。
イーグルはサイモンさんの横だ。
全員が席に着いた所で、グレートさんが重々しく口を開いた
「実はカナン領の南部に、最近ヴァンパイアが住み着いてしまったのだ」
ヴァンパイア?
どうやら、ガーグ・スイスイマー以外にもいた様だ。
まあ奴は真祖なので、独り立ちした配下が周囲に散っていてもおかしくはない。
俺はそんな風に考えた訳だが――
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