第13話 襲撃
「敵襲だ!」
目的地までの道のりを半分消化した所で、問題が発生する。
夜間の野営地に張った結界が破壊されたのだ。
就寝していた者達も飛び起き、慌ただしく陣形を組んで襲撃者に備えた。
――ペイレス家の人間は全員簡易ハウスの中だ。
魔法使い達がその周囲に幾重にも魔法で結界をはっているので、そこが一番安全な場所となっている。
「ぐえぇぇ」
「ぎぃぃぃ」
周囲の暗闇から、魔物達が姿を現わす。
種類は多種多様。
低級なゴブリンやキラーウルフが多いが、中にはオークやリザードマンなどの強力な物もかなりの数が混ざっていた。
魔物の中にも、共生する様な者達はいる。
だが流石にこの集団は異様だ。
これだけの数の種族の魔物が、それも此方を囲う様に襲って来る事など通常ならあり得ない。
――ぱっと思い浮かぶのは闇の牙だ。
呪術には、魔物を支配する類の物もある。
状況から考えて、奴らで間違いないだろう。
それにしても、よくこれだけの数を用意できたものだ。
此方を囲む魔物の数は、ざっと見積もっても200匹以上にはなる。
呪いによる洗脳は、呪殺より遥かに手間のかかる物だと聞く。
魔物を捕らえ、削ったその身を触媒にして呪いをかける訳だが、精神の支配というのは簡単な事ではない。
自我の弱い魔物に何度も呪いを上書きする様にかけて、初めて支配できる様になるとか。
しかも呪いであるため、かけられた者は日々弱っていってしまう。
つまり、長く洗脳状態を維持できないという訳だ。
にも拘らず、これだけの数を襲撃に合わせて用意するとなると、俺が思っているよりもずっと闇の牙の力は大きいのかもしれない。
もしくは、なんらかの出資者がいるか、だ。
高位貴族であるペイレス家には、政敵も多いだろうからな。
家は……まあないな。
ペイレス家は俺と接触してはいるが、別に抱え込まれている訳じゃない。
たとえそれを知ったとしても、その程度では流石に動かないだろう。
何より、あの潔癖症である兄のグンランが、悪名高い犯罪集団を援助するとは考えられなかった。
そんな真似が出来る様なら、きっと俺は追放などされていなかった筈だ。
何だかんだいって、俺のスキルはかなり優秀だからな。
「魔物を一歩たりとも近づけるな!」
サイモンが激を飛ばす。
周囲を囲った魔物達は唸り声を上げるだけで、まだ動いてこない。
まるで何かを待っている様だ。
「くくく……威勢のいいものだな」
そしてその予想を肯定する答えとして、魔物達の中から三人の男が姿を現わした。
黒のローブを着たそいつらは、フードを深くかぶっている為その顔は見えない。
俺の目を引いたのは、中央の男が片手に持つ髑髏水晶だ。
恐らく呪術の触媒だろうと思われる。
「貴様何者だ!」
「くくく。わしか。言わぬでも分かっておろう。闇の牙じゃよ」
しわがれた低く汚い声。
顔はフードで見えないが、声質から、中央の男が相当高齢である事が分る。
「ペイレス家に仇成す卑しい賊徒共め!」
「ふん。既得権益の蜜を吸う貴族と、それに尻尾を振る犬には我らの崇高な行いなど分かるまい」
「戯言を!」
本当に戯言だ。
人を呪ったり、夜襲をかける崇高さなんて聞いた事が無い。
こういう輩は、自分の信じる物の為なら何をしてもいいと本気で思っているから厄介だ。
「まあいい。お前達はここで死ぬ。だが安心しろ。ペイレス家の連中は暫く生かしておいてやる。ザヌスを攫い、呪いを解いた方法を聞かねばならんからな」
ザヌスを攫い……
恐らくセーヌ達に呪いをかけていた呪術師の事だろう。
どうやら、奴らは呪いを解いた方法を探っている様だ。
まあ当然か。
急に術者が攫われて解呪された訳だからな。
それが自分達にとって脅威だと考えるのは、極自然な事だ。
……どうも、能力はあまり派手に使わない方がよさそうだな。
情報が闇の牙に伝わると、俺がターゲットになるのは目に見えている。
取り敢えず、スキルを使う際口に出すのは止めておこう。
実は、別に声に出さなくとも【ズル】は発動できた。
今まで口にしていたのは、それでなくともインチキ臭いスキルをこっそり発動するのは卑怯過ぎるかなという、後ろ暗い気持ちがあったからだ。
だが自分の身の安全がかかって来るとなれば、流石に話は変わって来る。
「……」
黙ってスキルを発動させる。
この三人だけでここにいる魔物達全てを操っているとは思えない。
こいつら以外にも、かなりの数が隠れている筈だ。
――安全圏で魔物をけしかける様な卑怯な真似はさせない。
「なに!?」
「どういう事だ!?」
予想通り、隠れていた者達が目の前に現れた。
俺は更に【ズル】で奴らの呪術を封じる。
スキルで呪術を封じたという事は――術によって縛られ、洗脳されていた魔物達が自由を取り戻すという事だ。
「ぎぎぃ!」
「おおおおぉぉぉぉぉ!」
「ぐるるるる!!」
魔物達が雄叫びを上げ、周囲を威嚇する。
彼らは呪術で縛られていたからこそ、異種と足並みを揃えて行動していたのだ。
それが無くなった以上、彼らにとって周囲は敵だらけと言っていい。
――魔物同士が争いだす。
逃げ惑う小型の魔物。
興奮しているのか、同族でもお構いなしに襲い掛かる奴。
自分達の背後で起こる異常事態に思考が追い付けないのか、闇の牙の連中はその様子をあ然とした表情で眺めていた。
だがペイレスの護衛団は大したものだ。
彼らからしても急な事態にも関わらず、皆騎士として慌てる事無く陣形を維持していた。
そんな中、俺は一人前に飛び出す。
闇の牙の奴らを始末する為だ。
奴等は何が起こっているのか理解していないだろうが、俺がターゲットになる可能性が高い以上、余計な情報を持ち帰らせる訳にはいかない。
――誰一人として逃がさない。
「ぎゃあ!」
呪術師の一人がオーガに殴られる。
その体がまるでオモチャの様に吹き飛んでいく。
「ひ……ひぃぃぃぃ!」
それを見てパニックを起こした呪術師が、その場から逃げ出そうとする。
俺は素早くその背を切り捨てた。
「ふっ!」
そして連続して呪術師達の首を刎ねた。
一人を除いて。
「――っ!?」
リーダーと思しきローブの男。
その体に触れる前に、俺の剣が弾かれてしまったのだ。
「結界か……」
奴の手にしている水晶の髑髏が強く輝いていた。
おそらくそれが発生させているのだろう。
呪術師であるこの男が自信満々で前に出て来たのも、これがあったからに違いない。
「よくもわが同胞達を!許さんぞ貴様!」
男が魔法を詠唱する――封じたのは呪術なので、魔法は普通に使える。
防御をマジックアイテムの結界に任せ、魔法で攻撃するつもりなのだろう。
――だが甘い。
俺は闘気を剣に込め、オーラブレードを発動させる。
それは自らの気を武器に付与し、その破壊力を高めるスキルだった。
このスキルは生まれつき所持しているユニークスキルとは違い、訓練によって習得した物だ。
その習得難易度は高く、扱える者はかなり限られている。
ペイレス騎士団で扱える者がいるとすれば、おそらく団長であるイーライ・ガルダンだけだろう。
直接あった事はないが、ジョビジョバ家の騎士団長が彼を誉めていたのを聞いた事があるので、その腕前は相当な物の筈だからな。
「ふっ!」
「ぐおあ!?」
俺の突きがが結界を砕き、骨すら貫いて奴の胸に突き刺さる。
致命傷だ。
内部をかき回すかの様に剣を捻ってから、俺は刀身を引き抜いた。
「お……おのれ。闇の牙は……必ず……や」
呪術師はこれで全員始末した。
後は魔物達だけだが……ま、烏合の衆だから楽勝だろう。
統率されていたら数の多さも合わさって厄介な相手だったが、今や同士討ちや逃走のオンパレードだ。
ここにいる騎士達は何だかんだでそこそこ腕が立つので、そんな相手は敵じゃない。
「終わったな」
予想通り、暴れるだけの魔物達に対処するのにはたいして時間はかからなかった。
騎士達が穴を深く掘ってそこに魔物の死体を投げ込み、結界を張りなおした魔法使いがそれを焼く。
匂いが少しきついが、流石に死体をそのままにする訳にはいかないからな。
「貴様。何をやった」
死体の処理が終わり、一息ついているとイーグルがしかめっ面で話しかけて来た。
呪術師が急に姿を現したり、魔物達が暴れ出したのを俺が何かしたと思っている様だ。
まああの状況でなら、得体のしれない新人が何かしたと疑うのは当然の事ではある。
道中の事もあるしな。
ま、こいつに答える気は更々ないけど。
「何の話だ?」
「惚けるな!アレはお前がやったんだろう!どうやったか――」
「イーグル!」
イーグルの言葉を、近くにいたサイモンが止める。
「副長!何で止めるんですか?」
「彼は騎士団員ではないんだぞ。ケイン様が直々に御指名された護衛だ。そのスキルは我々が詮索していい物ではない」
流石副団長。
礼節を弁えているな。
それに比べてイーグルの稚拙な事。
確かに剣の腕は悪くなかったが、腕が立つだけでは騎士は務まらない。
緩めのペイレス家だから許されているが、これがもしジョビジョバ家の騎士団だったら、とっくに追い出されている事だろう。
「申し訳ありません」
「謝るのは私にじゃなく、シビック殿にだ」
「う……すまなかった」
こめかみをぴくぴくさせながら謝ってこられてもなぁ。
ま、揉めたい訳でもなければ、彼の教育係でもないからスルーしとくけど。
「シビック殿。うちの人間が失礼な事をした」
「ああ、気にしないでください」
サイモンさんの謝罪に、俺は適当に答えておいた。
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