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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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情けない男

作者: 空腹原夢路
掲載日:2025/11/07

俺は情けない男だ。


沖縄で生まれ育った。底辺のヤンキーと呼ばれる連中と一緒に過ごしてきた。街中でバイクを乗り回して、警察に追われる日々。顔も覚えられて、小さな違反なら注意だけで見逃してもらえるようになってた。


本来の俺は陰キャだ。恋愛にも積極的になれない。中2の頃、ヤンキー仲間の2歳上の女に「お前可愛いな」と気に入られて、初体験を済ませた。恋人というわけじゃない。ただの遊び相手だった。


高校生になって、一人の金髪ヤンキーの女と出会った。見た目はギャルなのに処女だって言うんだ。高校生にもなれば周りはほとんど経験済みだ。そのギャップに衝撃を受けた。俺はその女を意識するようになった。周りの友達も、お前ら似合ってるから付き合えよと囃し立てた。


告白なんてできなかったけど、二人きりになった時、彼女の方から「付き合おっか」と言ってくれた。


初めての彼女だった。嬉しくて、連絡もこまめにとった。バイクの後ろに乗せて、デートもした。


でも、手を出せなかった。どうやって手を出せばいいのかわからなかった。ホテルに行っても、彼女がツンツンとちょっかいを出してきても、「なんだよやめろよ」と言うだけ。ただ隣で寝るだけで終わる。そんな日が続いた。


ある日、ヤンキー仲間と宅飲みをした。彼女も連れて行って、みんなで騒いだ。酔いつぶれた奴から順番に寝始めて、俺もいつの間にか眠っていた。


小便がしたくなって目が覚めた。キッチンの方から呻き声が聞こえる。暗闇の中、目を凝らすと、仲間で一番腕っぷしの強い男が、俺の彼女を犯していた。


俺は動けなかった。


目の前で彼女が犯されているのに。俺はまだ手すら出せていないのに。


でも、動けなかった。



この情けない話は誰にもしてこなかった。


それから十数年。俺はもう30歳で、子供も生まれたばかりだ。

こんな情けない男でも父親になった。


もう一つ、情けない話がある。


大学生の頃の話だ。夏休みに免許合宿に行って、バイト三昧で金を貯めて、やっとの思いで車を買った。でも彼女なんていないから、男友達とドライブに行くことになった。授業が終わってから山道を走って、夜景を見に行った。男二人で。


ままならない運転で山頂に着いて、夜景を眺めた。男二人だから数分で満足して、駐車場に戻ろうとした。


前から5、6人の集団が歩いてくる。特に気にせず進んだら、いきなり股間を蹴られた。


抵抗したらもっとやばいと思った。殴られながら財布を出した。そしたら車の鍵も出せと言われた。山の上で車を盗られる? それは無理だと言った。


すぐにパンチが鼻に飛んできた。


そこから先はあまり覚えていない。血だらけになって、夜景を見に来ていたカップルに助けを求めた。それだけは覚えている。


警察には血だらけのまま事情聴取された。動けるなら容赦なしだ。被害者かどうかなんて関係ない。そう思った。


5人は捕まったが、首謀者は捕まらなかった。


いつだって強い奴が得をする。


その集団は余罪が多くて、長く刑務所に入ったらしい。

この前、警察から連絡があった。刑期が終わったと。


俺たちは今、大阪に住んでる。でも妻が出産するから沖縄に帰ってきたんだ。

そしたらレンタカー屋で、達也が社長として働いてるじゃないか。

随分稼いでるらしい。俺をあれだけ苦しめたのに。


あの山での強盗、達也が企画したって、この前出所したての仲間の一人から聞いたよ。

俺がSNSに新車でドライブ行くって投稿したのを見て、わざわざ計画立てたんだと。


高校の時の仲間が、大阪まで俺を追って、山で待ち伏せして、血だらけになるまで殴って、車を奪おうとした。


全部、達也の指示だったんだな。


俺はずっと恨んでた。一度も忘れたことなんてなかった。


でも、それだけじゃなかった。


沖縄に着いて、レンタカーを借りに行った時のことだ。

達也は俺の妻を見た。

その目を、俺は知ってる。

高校の時、俺の彼女を見たあの目と同じだった。


なめまわすように、妻の体を見ていた。

妻の膨らんだ腹を見て、ニヤリと笑った。

その瞬間、わかったんだ。


こいつは、また何かやらかす。


高校の時と同じだ。大学の時と同じだ。こいつは俺から奪うことを楽しんでる。

絶対に許さない。

絶対に、妻と子供は守る。


それでな、俺、決めたんだ。



なぁ、達也。



お前、俺のこと覚えてるか?


いや、覚えてるよな。

縛られて、猿ぐつわかまされて、身動き取れないお前でも、その目を見ればわかる。

俺のことを思い出してる。


ここがどこだかわかるか? 

お前のレンタカー屋の倉庫だよ。

閉店後、お前一人で締め作業してるところを襲った。

簡単だったよ。成功者気取りで、すっかり油断してたもんな。


お前、今、必死に首を振ってるけど、無駄だよ。


さっき話した、高校の時に彼女を犯した男。お前だよな。


大学の時に俺を襲わせた首謀者。お前だよな。


そして、俺の妻をなめまわすように見た男。お前だよな。


あの目を、俺は忘れない。

高校の時、彼女を見たあの目と全く同じだった。

お前、また何かやらかそうとしてただろ。

俺の妻に、生まれてくる子供に、手を出そうとしてただろ。


あの時の彼女がどうなったか、知ってるか?


ああ、猿ぐつわしてるから答えられないよな。でも、聞いててくれ。


あの後、彼女は俺と別れた。

当然だよな。目の前で犯されてんのに何もできない男なんて。

でもそれだけじゃなかった。

学校にも来なくなって……半年後、薬のオーバードーズで救急搬送されたんだ。


お前のせいだ。


いや、違うな。

お前のせいでもあるけど、俺のせいでもある。

あの時、俺が動いてれば。


でもな、達也。俺、気づいたんだ。


俺はずっと、動けなかった自分を責めてた。

情けない、情けないって。

でも違うんだ。

悪いのは、動けなかった俺じゃない。

お前なんだよ。お前が、やっちゃいけないことをやったんだ。


当たり前のことだけど、俺はそれに気づくのに十数年かかった。


お前が怖がってる目をしてるのがわかるよ、達也。

いいんだ、怖がってくれて。俺はずっと怖かった。お前が怖かった。

俺、ずっと考えてたんだ。お前に何をしようかって。


警察に行こうかとも思った。弁護士に相談しようかとも思った。でも、証拠はない。お前は何の罰も受けない。


それが許せなかった。

だから、俺が裁くことにした。


俺は達也の目の前にしゃがみ込んだ。


高校の時、俺は動けなかった。大学の時も、抵抗できなかった


俺は拳を握った。


でも今は違う。俺には守るものができた。子供ができたんだよ。妻がいるんだよ。お前には絶対に触れさせない


達也の目が必死に何かを訴えている。許してくれ、と言いたいのか。


許さない


俺は達也の顔面に拳を叩き込んだ。

鼻が砕ける音がした。


これは、元彼の分


もう一発。


これは、大学の時の分


もう一発。


これは、俺が失った十数年の分


何発殴ったかわからない。

達也の顔が血だらけになる。

俺の拳も血だらけだ。達也の血か、俺の血か、もうわからない。


お前が……お前がっ……!


言葉にならない。

あの時の無力感。あの時の屈辱。あの時の絶望。

全部、全部、この拳に込めた。

達也が意識を失いかけている。


俺は手を止めた。


まだ終わりじゃない


俺は立ち上がって、倉庫の中を見回した。


ガソリンがある。


お前の会社、全部燃やしてやる。お前が築いたもの、全部灰にしてやる


達也が目を見開いた。必死に首を振っている。


そしてお前も、一緒にな


達也の目が、恐怖で見開かれる。


俺はガソリン缶を手に取った。


俺はな、ずっと情けない男だった。でも、今日で終わりにする


倉庫中にガソリンを撒く。達也の体にもたっぷりと。

達也が暴れている。でも、縛られた体では何もできない。

あの時の俺みたいに。


お前を生かしておいたら、また俺の家族に手を出すだろ。高校の時みたいに。大学の時みたいに

達也が必死に首を横に振っている。涙を流している。


遅いんだよ。お前が俺の彼女を犯した時に、もう終わってたんだ


俺はマッチ箱を取り出した。


最後に言いたいことはあるか?

達也の猿ぐつわを一旦外す。


「お…お前に情けはないのか…」


最初に言っただろ。



俺は“情け無い男”だと



猿ぐつわを戻し、マッチに火をつける。

子供には、強い父親の背中を見せたい。でもそれは、暴力が強いってことじゃない

マッチを投げ込む。

轟音と共に、炎が上がった。

達也の体が炎に包まれる。呻き声が悲鳴に変わる。でも、猿ぐつわのせいで、誰にも届かない。


家族を守るためなら、何でもする。それが父親の強さだ


炎が倉庫全体を包んでいく。俺はその光景を、最後まで見届けた。

達也の悲鳴が、やがて聞こえなくなった。

俺は燃え盛る倉庫を見つめた。


俺は、やっと、自分の人生を取り戻したんだ


妻が待つ産院に向かわなきゃ。

子供が生まれる。

新しい人生が始まる。

俺の、本当の人生が。


「じゃあな、達也」


俺は炎を背に、歩き出した。

二度と、誰も俺の家族に手を出させない。

二度と、俺はただの情けない男には戻らない。

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