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逃げ水の犬  作者: うるいあ


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3/8

「くだらない」ってあの子は言ったよ。

「くだらない」ってあの子は言ったよ。

くだらない、どうしてあんたがみつけるの、どうしていつもそういう嘘をつくの、私が負けたと思って、悔しがると思った? これは悔しいからじゃない、あんたに呆れて怒ってるから。気持ち悪くなる前に、ちゃんと嘘だって言って。

あの子は私相手だと、滝みたいに言葉がたくさん出てくるから、私も小説とかは好きだけど、おしゃべりのときにスムーズに言えるかはわからないでしょ? たからそのどうどうと滝みたいに流れる感情を、ごめんね、でもね、って言いながら聞いて、なだめて、落ち着くのを待ったよ。あの子の癖だから、仕方ないの。――でも、私と二人きりの時だけ出る癖なのが、ちょっとやだよね。わかる?

くだらない、くだらない、って言って、でもふと気づいたんだろうね。じゃあ明日、同じ時間に同じ場所に言ってみよう、私も一緒に確認する、って言い出したの。あの子にとって見れば、本当だったら他の子達に自慢できるし、嘘だったら私のこと嘘つきにして、また他の子にこういう嘘つきを面倒見ているんだ、ってアピールしようとしてたんじゃないかな。時々いるよね、そういう子。あの子、時々そういうことしちゃう子だったの。それ以外はいい子だったし、クラスでも男子が女子をからかったら、積極的に戦ってくれたり、私がマラソンとかで遅いと、文句を言いながら一緒に走ってくれるような子だったんだけどね、でも時々、たぶん、お家で何かあったり、テストの点数が悪かったり、先生がその子の不正解をからかったり、そういうことがあると、私に突っかかる癖があったの。私は私で、やめて、って一回くらい言うのがせいぜいで、結局あの子に引っ付いちゃっていたんだけどね。共依存だったのかも。振り返ると、ちょっといびつな青春だね。今は仲良しだよ。――温泉に一緒に行くくらい、仲良し。



土曜日の昼間、通学路だからかそんなに人も居なくて、その道は私とその子としかいなかった。一時間くらいかな、逃げ水を待ったよ。出ない出ない、ってあの子は金平糖を握りしめて地団駄を踏んで、私に「学校に行ったら、この事皆に言いふらすから」って怒ってたなあ。私もなんで話しちゃったんだろう、って落ち込んで、涙で視界が滲んでね。

その時だった。

逃げ水の中に、ぼんやり、ぽんやり、半透明のスライムみたいなのが居たの。「あれ、あれ!」って小さい声から大きな声になって、指を指した先をあの子が見て。目を見開いて、駆け寄っていった。


「金平糖持ってきたよ!」


そう言うと、いつもは逃げる水が、逃げずに私達はそのキラキラに近づいたの。あの子が持っていた文庫本に書いてたのを、あの子がやってみたくて持ってきてくれたんだよ。『その犬は金平糖が好きなので、手のひらに乗せて近づくと逃げません』って。可愛らしいフォントで、怪異と仲良くなるポイント、みたいなのが。文庫本なのに無駄にファンシーで、一体どこで買ってきたのかな。今度聞いてみようかな。

とにかく、金平糖を持って近づくと、その犬は大きくなった。大きくなった、っていうのも変だよね、遠いから小さく見えてただけなのに。

近づいてみたら、手乗りのスライムが小型犬くらい大きくて、やっぱり顔文字が張り付いてて、耳もプルプルしてて、こんなぬいぐるみが、今だったらどっかに売ってそう。UFOキャッチャーにありそうな、かわいいやつだった。だから、ぬいぐるみなのかな、って思ったけど、生きてた。動いてたの。ぷるぷる、って呼吸する事に、半透明の地面が震えるのが見えた。でも不思議と怖くなかった。あ、そうか、こういう存在が、いるんだなって。今だったら怖いと思って逃げ出すと思う。大人ってね、わけのわからないものが嫌いなの。私も大人になっちゃったんだなあ。嫌だけど、まあ仕方ないね。

ふる、ふるふる、ってその存在が震えて、それを見たあの子が、目を見開いて、口も開いて、なにこれ、なにこれって興奮してた。私はその様子を見て、こうやって驚くんだ、って思ったの。

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