私が中学生くらいのときに
私が中学生くらいのときに、通学路の途中にある道に、よく逃げ水が出る場所があって――今もある? 小学校と中学校の間の、赤い屋根の家の前の長い道。ああ、本当に。まだあるんだね。良かった。
学校は改築されて、遠目で見てもぜんぜん違う場所みたいに見えるんだもん。あの道がそのまま、ってだけで懐かしい気持ちと安心する気持ちがわいてくるよ。
その道の逃げ水に、怖い話があるの知ってる? って言っても、時期も曖昧で、体験した人の話も曖昧だから、とりとめがないの。でもあそこの逃げ水って、不思議じゃない? 逃げ水って、蜃気楼の一種だから、暑い日にしか起こらないでしょ。でもあそこって、そんなに暑くない日でも、なんなら冬の日にもできてない? あ、よかった。今もそうなんだ。っていうか私の記憶違いじゃないんだ。やっぱり。
とにかくあそこの場所の逃げ水に、何かが住んでいるっていう怪談があったの。落ち武者、とか自殺した女の人、とか色々あったよ。近づこうとしても近づけないのに、追いかけてくるみたいで、そこに変なものが住んでいるって思うだけで、気味悪いよね。
私の友達の一人も、そういう話が大好きだったの。文学少女で、イタイイタイ時期真っ只中で、黒い手帳にたくさん難しい言葉を書いてたよ。私も手伝ったけど、あの子が思うレベルには至らなくて、いつも怒られてたなあ。その子、自分でも言う通り、私に対してキレると何するかわからない子で、でもどんくさい私の面倒も見てくれるから、両親はその子に頼りきりだったの。――そう、温泉に一緒に行った内の一人。八重歯が可愛いんだけど、それを言うと怒るの。歯並びが悪いって、バカにしてるのか、って。それであることないこと他の同級生に話されて、私だけグループからはじかれたこともあった。
その子がその当時ハマってたのが、怪談で、怪談がびっしり書いてある文庫本を持ち歩いてたの。挿絵が可愛いイラストの、そこに逃げ水にいる犬の事が書いてあって、すごくかわいいのね。少女漫画のイラストだから、怖い絵もデフォルメで可愛く書いてあるの。だから、書かれた犬も絵文字みたいな『・エ・』みたいな顔で。気が抜けてて、犬に食べられちゃう話だったのに、そのイラストが可愛いから、私笑っちゃったんだ。
逃げ水の中にいるのがあの犬ならいいのにな、って思っていたある日ね。私見ちゃったの――本当に、その逃げ水の中に、犬がいるのを。
っていうか、どちらかというと大きいスライムかな? 写真を撮るときにやらない? 手乗り建物、みたいな。遠くにあるやつを手で持つみたいにみせるやつ。あれをしたくなるくらい、丸くて半透明で、でも顔がついてるの――文庫本で見てたのも合ったからかな、私はその変な存在を、すぐに「あの犬だ」って思った。
喧嘩で口を聞いてくれていなかった友達に、そのことを話したの。そしたらその子ね、すごく怒った。ここのページの、これが逃げ水の中にいたんだよ、って私、それでも説明したの。――だって、信じてほしかったから。




