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恋を追いかける君に。スピンオフ ~一稀と真綾の想い~

作者: 雪代深波

この物語は、『恋を追いかける君に。』の世界で、ひっそりと自分の想いを抱えていた真綾の視点から描かれるスピンオフです。主人公の一稀と真綾の繊細な心の動きを、秋の情景とともに丁寧に綴りました。恋とは、追いかけるもの、待つもの、そして時に勇気を出して踏み出すもの――。そんな二人の小さな一歩が、誰かの心に響けば幸いです。この物語は、読者の皆さんが自分の「届かなかった想い」や「新しい始まり」を思い出すきっかけになればと願っています。

第一章:すれ違う視線


秋の夕暮れ、図書館の静かな一角で、真綾は参考書を広げながら、ちらりと隣の席を見た。そこには一稀がいた。少し乱れた黒髪に、集中しているとき特有の真剣な目。真綾の心は、いつも彼のそんな姿に小さく揺れる。


一稀は、いつもどこか掴みどころがない男だった。明るくて、誰とでもすぐに打ち解けるのに、心の奥は見せてくれない。真綾はそんな彼に、いつからか惹かれていた。高校時代、クラスメイトとして過ごした日々の中で、一稀の笑顔やふとした優しさが、彼女の心に積もっていった。


「真綾、めっちゃ集中してるじゃん。試験勉強?」


一稀の声に、真綾はハッと我に返る。気づけば、彼がニヤリと笑って彼女を見ていた。


「う、うん、そうだよ。一稀は?」


「俺? まあ、適当に流し読み。頭いい真綾の隣にいれば、なんか賢くなれるかなって。」


一稀の軽い口調に、真綾は苦笑する。でも、その笑顔の裏に隠れた何かを感じて、胸がざわつく。彼女は知っていた。一稀が最近、別の女の子に夢中だと。噂で耳にしていたし、彼のスマホに映るメッセージの通知を、チラリと見てしまったこともあった。


---


第二章:言葉にできない想い


真綾は一稀のことが好きだった。でも、それは自分だけの秘密だった。一稀はいつも誰かに恋をして、楽しそうに話す。そのたびに、真綾は「友達」として笑顔で話を聞くしかなかった。


ある日、校庭のベンチで二人は偶然隣り合った。夕陽がオレンジ色に空を染め、涼しい風が吹いていた。


「なあ、真綾ってさ、恋愛とか興味ないの?」


一稀の突然の質問に、真綾はドキリとする。彼女は一瞬、目を逸らし、言葉を選んだ。


「興味…なくはないよ。ただ、タイミングとか、ね。」


「ふーん。なんか、真綾って真面目すぎるんだよな。もっとさ、ガッと行っちゃえばいいのに。」


一稀は笑いながら言ったけど、その言葉は真綾の胸に刺さった。ガッと行くなんて、彼女にはできなかった。一稀の心がいつも別の誰かでいっぱいだから。


「一稀こそ、いつも恋愛してるじゃん。…今、誰か好きな人いるの?」


真綾は勇気を振り絞って聞いた。一稀は少し驚いた顔をして、それから照れくさそうに頭をかいた。


「まあ、いるっちゃいるけど…。なんか、今回は本気かもな。」


その言葉に、真綾の心は静かに沈んだ。一稀の「本気」は、いつも眩しくて、いつも彼女の手の届かないところにあった。


---


第三章:小さな変化


秋も深まったある日、真綾は一稀から突然、LINEで呼び出された。駅前のカフェで待っていた一稀は、いつもより少し神妙な顔をしていた。


「よ、真綾。ちょっと相談したいんだけど。」


「相談? 珍しいね、なに?」


真綾は平静を装いながら、心臓が早鐘を打つのを感じた。一稀は少し俯いて、ため息をついた。


「…例の彼女、振られちゃったよ。なんか、俺、いつもこうなるな。」


一稀の声には、珍しく弱気が混じっていた。真綾はそんな彼を初めて見た気がして、胸が締め付けられた。


「そっか…。でも、一稀って、いつも一生懸命だよね。誰かを好きになるの、すごく真っ直ぐで…カッコいいと思うよ。」


真綾の言葉に、一稀は少し驚いたように彼女を見た。そして、ふっと笑った。


「真綾にそう言われると、なんか救われるな。…ありがと。」


その瞬間、二人の間にいつもと違う空気が流れた。一稀の目が、真綾をまっすぐに見つめていた。彼女はドキドキしながら、初めて自分の気持ちを口にしてみようと思った。


「一稀、私…」


「ん? なに?」


一稀が首を傾げる。真綾は一瞬躊躇したが、意を決して続けた。


「私、ずっと一稀のこと見てた。…好きだったよ。ずっと。」


カフェの中は静かだった。一稀の目が大きく見開かれ、しばらく言葉が出なかった。真綾は顔が熱くなるのを感じながら、俯いた。


「…マジで?」


一稀の声は小さかった。驚きと、どこか戸惑ったような響き。真綾はそれ以上何も言えず、ただ頷いた。


---


終章:新しい季節


それから、一稀と真綾の関係は少しずつ変わっていった。一稀はすぐに答えを出すことはなかったけれど、真綾の告白をきっかけに、彼女を意識するようになった。真綾もまた、自分の気持ちを隠さず、素直に伝えることで、どこか心が軽くなった。


「真綾って、意外と大胆だよな。」


ある日、一稀が笑いながら言った。真綾は照れながらも、笑顔で答えた。


「一稀のせいだよ。…追いかけたくなっちゃうんだから。」


二人はまだ恋人ではなかった。でも、秋の風が運ぶ新しい季節の中で、互いの距離は少しずつ縮まっていた。真綾の想いは、ようやく一稀の心に届き始めていた。


(終)

ここまで読んでいただきありがとうございます!作者の雪代深波です!この物語を書くにあたり、真綾の秘めた想いと、一稀の少し不器用な心の動きを丁寧に描きたいと思いました。恋愛は、時に勇気を必要とするもの。真綾が一歩踏み出した瞬間は、私自身もドキドキしながら書いたシーンです。彼女の想いが一稀に届いたのか、届かなかったのか――その答えは、読者の皆さんの心の中で自由に想像していただければと思います。一稀と真綾の物語は、ほんの小さな一歩ですが、それが新しい季節の始まりになることを願っています。読んでくれてありがとう。そして、皆さんの心にも、誰かを想う瞬間や、勇気を出す瞬間が訪れますように。

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