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番外編 何故、あの人が?

北米の地、まばゆいばかりのNBAコートの片隅で、宮城リョータは興奮気味に腕を組んでいた。

彼の胸には、海をモチーフにしたスタイリッシュなロゴが刺繍されたサーフブランドのシャツ。

かつてはコートを駆け回った彼も、今はアパレル業界で辣腕を振るうビジネスマンだ。

アメリカ出張の合間を縫って観戦に来たこの試合は、彼が日本にいた頃からのライバルであり、友人でもあった男の引退試合だった。

「河田サン…あいつ、今日で最後なのか…」

コートには、長年NBAのセンターとして活躍し、その巨体と巧みなポストプレイで多くのファンを魅了してきた河田雅史の姿があった。

白髪が混じるようになった頭髪は時の流れを感じさせるが、その眼光は未だ鋭く、コートを支配するオーラは健在だった。

リョータは、彼が試合で放つ一本一本のシュート、リバウンドへの執着に、かつての高校時代の激闘を思い出していた。

試合終了のブザーが鳴り響き、河田はチームメイトに囲まれてコートを後にした。

観客からのスタンディングオベーションは、彼がどれだけこの地で愛されたかを物語っていた。

リョータは、試合後、彼とサシで飲む約束をしていた。

ダウンタウンの洒落たバーで、二人はグラスを傾けていた。琥珀色の液体が、グラスの中で揺れる。

「お疲れさんです、河田サン。」

リョータが言うと、河田はグラスをゆっくりと回しながら答えた。

「宮城もわざわざありがとうな。まさか宮城がこっちにいるとはな。」

二人の会話は、昔話に花が咲き、あっという間に時間が過ぎていった。

「それにしても、河田サンもついに引退ですか。寂しくなりますね。」

リョータの言葉に、河田は苦笑した。

「仕方ないさ。体もきつくなってきたしな。これからは、地元でゆっくりしようと思ってる。」

「地元、秋田ですか。いいですね。何かやるんすか?」

リョータの問いに、河田は少しだけ口元を緩めた。

「ああ、小さいけどバスケ教室を開こうと思ってんだ。俺には、小学生の息子と娘がいてな。そいつらも生徒にするつもりだ。」

「へぇ、それはいいですね! 河田先生ですか。子供たちも喜ぶでしょうね!」

リョータがそう言うと、ふと何かを思い出したように言った。

「そういえばさ、河田サン。最近、ちょっと面白いもん見つけてさ。河田サンもどうです?」

河田は首を傾げた。「面白いもん?」

「ああ。遊戯王、知ってますか? あのカードゲーム。」

河田は、一瞬何を言われたか分からなかった。

バスケの宮城が、まさかカードゲームの話を切り出すとは。

「遊戯王って、あの高校生の頃に流行ったやつか? まさか、宮城が今さらハマってるのか?」

リョータはニヤリと笑った。

「いやいや、俺は今はやってねぇっすけど。実はな、最近プロリーグみたいなものができてきていて、日本でも盛り上がってるらしいんですよ!」

「プロリーグ…カードゲームの、か?」河田は眉をひそめた。

「ああ。でな、驚くなよ、河田サン。あの桜木花道が、プロデュエリストとして、結構活躍してるらしいんですよ!」

河田は、思わず持っていたグラスをテーブルに置いた。

「桜木が…プロデュエリストに?」

「ああ。俺も最初は信じられなかったすけど、流川から教えてもらってな。あいつのデュエル、今も昔もバスケやってる時と同じなんすよ。野生的な勘と、ここぞという時の爆発力で相手をぶっ飛ばす、みたいな。動画も見たけど、確かにあいつっぽいデュエルでしたよ!」

リョータの言葉に、河田の目に光が宿った。

「桜木が…そんなことを」

「だからさ、河田サン。バスケ教室だけじゃなくて、河田サンもどうです? もう一度、あいつと勝負してみたくないですか?」

河田の表情に、バスケを引退する寂しさよりも、新たな挑戦への期待と闘志が満ち溢れていた。リョータは、そんな彼の変化を見逃さなかった。

「…そうだな、宮城。面白い。俺も、あいつのデュエルとやらを見てみたいし、何より、もう一度あいつと勝負がしたい。バスケとは違う舞台でな。」

「だろ? 河田サンならきっと、すぐ強くなれますよ。あのオールラウンドなバスケの頭脳と経験は、デュエルでも活かせるはずです!」

河田は深く頷いた。「ああ。ありがとうな、宮城。宮城のおかげで、面白い目標ができた...」

数ヶ月後、河田雅史は秋田の地で、小さなバスケ教室を開いていた。

そこには、彼の息子と娘も元気いっぱいにボールを追いかける姿があった。

子供たちの指導を終え、夜になると、河田は自宅の書斎でデュエル盤に向かっていた。

彼のデッキは、バスケのプレイスタイルを反映したかのような、『クリフォート』デッキをベースに、さらに柔軟性と攻撃力を加えたものだった。

戦略の奥深さ、堅実なプレイングは健在で、対戦相手をじわじわと追い詰めていく。

「父ちゃん、今日のデュエル、すごかったね!」

「うん、父ちゃんのモンスター、かっこよかった!」

子供たちがデュエル盤を覗き込む。

河田は、二人の頭を撫でながら優しく微笑んだ。

「うはは、お前たちもバスケとデュエル、両方頑張るんだぞ。」

彼は、デュエルのオンライン対戦で全国のデュエリストたちと腕を磨き、週末には地方の小規模な大会にも出場し始めた。

バスケの指導者としての顔と、プロデュエリストを目指すもう一つの顔。

二足の草鞋は決して楽ではなかったが、彼の中には、桜木との再戦という明確な目標があった。

「桜木…待ってろよ。今度は、このデュエルの舞台で、もう一度お前と勝負する。そして、今度こそ…俺が勝つ!」

秋田の夜空の下、河田雅史は、新たな夢に向かって静かに闘志を燃やしていた。

彼の挑戦は、まだ始まったばかりだ。

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