娘・息子の声援と彦一の熱血解説
「キングス・カップ」準決勝、桜木花道VS河田雅史のデュエルは、もはや単なるカードゲームの試合ではなかった。
それは、二人の元バスケ選手が、新たな舞台で互いのプライドと人生を賭けてぶつかり合う、まさに死闘だった。
デュエル開始から既に1時間を経過し、会場は異常な熱気に包まれていた。
そんな白熱のデュエル会場に、一際目立つ三人組が姿を現した。
「パパァーっ! 頑張れー!!」
黄色い声援と共に、一番前に躍り出たのは、中学三年生になった桜木家の長女、実花だった。
真っ赤に染められた髪は、まさしく父・花道を彷彿とさせる。顔立ちは父譲りの派手さだが、ギャルファッションに身を包み、堂々とした立ち居振る舞いは、どこか「リョーちん」こと宮城リョータの娘のような雰囲気も持ち合わせていた。
その隣には、中学一年生になった長男、智晴がいる。
顔は母である晴子そっくりだが、すでに父譲りの長身で、すらりとした手足は将来のバスケ選手を予感させる。口数は少ないが、その瞳は真剣にデュエルを見つめて呟いた。
「負けんなよ、親父!」
そして、その智晴の隣から、ふてぶてしい顔でデュエル盤を睨んでいるのは、小学四年生の次男、正晴だ。
見た目は、叔父のゴリこと赤木剛憲と父の花道を足して二で割ったような、小学生にしては大柄な体格。
生意気な口調で、「おい、親父! もっと攻めろよ! そんなんじゃダメだろ!」と、大声で檄を飛ばす。
桜木は、子供たちの声援に一瞬だけ視線を向け、ニヤリと笑った。「おう、見てろよお前ら! 天才のデュエルを見せてやるぜ!」
河田は、そんな桜木と子供たちのやり取りをちらりと見て、微かに口元を緩めた。
彦一の熱血解説!
会場の一角では、モニターを見つめながら熱弁をふるう男がいた。
元陵南高校バスケ部の相田彦一である。
彼は、大学に進学したもののプロバスケ選手にはなれず、現在は大手ゲームショップの社員として、イベントや大会の運営、さらにはデュエルの実況・解説も担当していた。
「これはまさに、山王戦を彷彿とさせる、激しい攻防です! 桜木選手は、持ち前の爆発力で河田選手を追い詰めますが、河田選手はバスケで培った冷静な判断力と、オールラウンドなデッキで桜木選手の猛攻をいなし続けていますね!」
彦一は、両手に持った資料をめくりながら、興奮気味に解説を続ける。
「桜木選手が使用しているのは、その豪快なプレイスタイルに相応しい『炎星』デッキです!高い攻撃力を持つ獣戦士族モンスターと、豊富なサポート魔法・罠カードで、フィールドを制圧し、一気に勝負を決めることを得意としていますね! 特に、切り札となるのは『炎星師-チョウテン』と、彼が生み出す強力なシンクロモンスターのコンボです! 桜木選手は、このデッキで培った瞬間的な判断力と、ここぞという時の爆発力で、相手を圧倒します!」
彦一は、さらに河田のデッキについても解説を続けた。
「対する河田選手は、そのバスケでのオールラウンドなプレイスタイルを反映したかのような『クリフォート』デッキを使用しています! 永続魔法のように扱える『Pモンスター』を駆使し、堅牢な防御を築きながら、高い打点を持つ上級モンスターを展開します。中でも、『クリフォート・ツール』を筆頭とするサーチカードで、必要なカードを的確に手札に加え、相手の動きを封じる『スキル・ドレイン』などの強力な永続罠で、桜木選手のモンスター効果を無効化していますね! まさに、鉄壁の守備と、相手の動きを封じ込める戦術で、桜木選手の猛攻を凌ぎきっています!」
実花は、デュエル盤の状況と彦一の解説を交互に見て、感心したように頷く。
「へぇ~、彦一さんって、デュエル詳しいんだね! パパの次に凄いじゃん!」
正晴は腕組みをして、「ふん、彦一の解説は分かりやすいけど、親父は適当にやってるんだろ?」と生意気な口をきく。智晴は静かにデュエル盤を見つめながら、彦一の解説に耳を傾けていた。
彦一は、子供たちの声援に気づき、マイク越しに呼びかけた。「おや、あちらは桜木選手の御家族のようですね! 桜木選手、ご家族の応援を受けて、さらに集中力が高まっていますよ!」
デュエルが始まると、桜木の予想は大きく裏切られることになる。
河田のプレイングは、桜木の想像を遥かに超えていた。
彼のデッキは、一見すると派手さはないものの、どんな状況にも対応できるような、隙のない構成だった。
桜木の得意な速攻を、河田は堅実な『クリフォート』モンスターと『魔封じの芳香』のような強力な永続罠でいなし、じわじわとライフポイントを削ってくる。
「ちっ、しぶといぜ、丸ゴリ! 『スキル・ドレイン』でオレの『炎星』モンスターの効果を無効にしやがって!」
桜木は舌打ちをした。普段ならあっという間に相手を圧倒する彼が、なかなか決定打を与えられない。
河田は常に冷静で、桜木の行動の裏をかくようなプレイを続けてくる。
「その『クリフォート・ディスク』をPゾーンに置くと、次のターン、こちらの動きを封じられる…読みが深すぎる!」
桜木は焦り始めた。彼の強みである「天才的なひらめき」も、河田の計算し尽くされたデッキとプレイングの前では、なかなか通用しない。
バスケの試合で、何度となく河田に阻まれた記憶が蘇る。あの時も、彼の予測不能な動きと、全てを支配するような存在感に、桜木は苦しめられた。
デュエルでも、同じ状況に陥っている。
デュエルは、あっという間に中盤に差し掛かった。
互いのライフポイントは、まだ大きくは減っていない。
大会会場では、長引くデュエルに、観客たちの興奮が高まっていた。
「こんなに接戦になるなんて…河田選手のデュエル、まるで壁のようだ!」
解説者がそう呟くほど、河田の防御は鉄壁だった。
桜木は、何度も攻め手を繰り出すが、その度に河田の巧妙な反撃に遭い、ライフポイントを少しずつ削られていく。
「くそっ、あと一歩が届かねぇ…! 『クリフォート』の守りは堅い!」
焦りが募る桜木は、ついにミスを犯してしまう。
不用意に繰り出した『炎星』モンスターが、河田の罠カード『強制脱出装置』によって手札に戻され、手札を消耗してしまったのだ。
「…無駄な動きだ、桜木。」
河田は淡々と言い放つ。その言葉が、桜木のプライドをさらに刺激した。
「うるせぇ! オレは天才だ! こんなところで負けてたまるか!!」
桜木は、呼吸を整え、再び盤面を見つめ直す。
このデュエルは、かつての山王戦のように、彼が自分の限界を超えなければならない状況に追い込まれていた。
長丁場のデュエルは、体力だけでなく、精神力も削っていく。しかし、桜木は諦めなかった。彼の瞳には、かつて「リバウンド王」としてコートを支配した時と同じ、獰猛な光が宿っていた。
「丸ゴリ…てめぇがどれだけしぶとくても、オレは必ず勝ち越す! これが、天才のやり方だ!」
桜木の宣言と共に、デュエルは最終局面へと向かっていく。果たして、桜木は河田の鉄壁の守りを打ち破り、勝利を掴むことができるのか。そして、河田は、NBAを引退し、デュエル界に身を置くことになったその真意を明かす日は来るのだろうか。
二人の宿命の対決は、まだ終わらない。