2 彼の得た”リアル”
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短いけど確実に更新していきます
アルセは高揚を抑えられない。心臓から血管内をマグマでも通っているかのような。重くドロリとした熱いものが全身を駆け巡るよう。
「ピリピリとした、緊張感。繊細な音の響き。一挙手一投足が命取りとなる殺気溢れる空間。」
アルセ、否、海斗は、新感覚ジャーキーと言える人物である。
未体験の感覚、感情を好み。それを得る為ならば、迷わず飛びかかるような人間である。小さい頃は、一種のロールプレイで新感覚を感じやすい、ゲームや本にのめり込んでいたが、ワンパターンになってしまう、それらに飽きていたのである。
「現実では、決して味わえない、確かな死の予感。遠のく意識。これは、新たな体験の予感がする。」
今だに鈍痛が残っている感覚のある腹部を押さえる。
「なら、次に体験したいのは、あのモンスターを倒す、感覚。肉をこの銃で撃ち抜く、非現実な感覚を知りたい。しかし、どう倒すか。反動が強すぎて、遠距離や中距離、近距離でさえ、撃ち抜けるビジョンが見えない。」
創作物では、比較的簡単に描かれる、銃撃だが、実際の反動や標準は素人が、一朝一夕に出来るものではなく、確かな研鑽としっかりとした環境、的確な指導を繰り返し受けることで、手に入れるものである。
特に、銃の所持さえ禁止される日本で、生きてきたたかが大学生に、扱えるものではなかった。
「もし、やるとしたら、超近距離。銃口と対象が当たる寸前で、撃つしか無い。アルゴリズムで動くモンスター。しかし、ここまでリアルを追求したゲームが、そんな単純なアルゴリズムをしているとは考えられない。」
アルセは、久しぶりに感じる昂ぶりを新たな体験への原動力とする。その姿は、まさに新たな玩具を与えられた子供のようである。
「まずは、モンスターの動きからだ。それに痛みで、集中力も切れてしまったら、反撃ができない可能性もある。そっちも慣れて行かなければ。」
―93回
これは、アルセがデスルーラを繰り返した回数である。通常のプレイヤーの殆どが、《リアリスティック》をOFFにして、程よい感覚でゲームを行うため、最序盤のこんなところでこれ程まで死を繰り返す者は居ない。
仮に、《リアリスティック》をONにして始めた者が居たとして、ここまで、難易度に差があれば、殆どの者が、OFFにすることだろう。
しかし、アルセにそのような選択肢は無い。
「さぁ、反逆の時間だ!」
再度向かい合う、両者。アルセは既に銃を握り、モンスターと向かい合う。周りの音が消え、両者の息づかいだけが聞こえるような錯覚さえ、感じてしまう。
「プレイヤーを見つけるとすぐに仕掛けず、まずは間合いを探る。アルゴリズムに縛られたモンスターとは思えない戦い方だが、既にその戦い方は、見ている。」
アルセは、大きく一歩を踏み出す。それが試合開始のゴングだったかのように、モンスターも駆け出す。蜘蛛型のモンスターは、キラリと光沢を見せる鋭い前足を振り下ろす。
アルセは、これに臆することなく、更に前に踏み込む。その攻撃を肩で受ける結果になる。深々と刺さる前足は、ズシンと大きな衝撃と言い表せないほどの確かな痛みをアルセに与える。
「ッ!だが、これだけ深く刺さると抜けないことも知っている。」
アルセは、銃口をモンスターの尾の部分に向ける。薄皮1枚ほどの至近距離で発砲。まるで血のような紫のエフェクトが宙を舞。腕にドシンと大きな反動がかかる。
少し、不快感の残る手をもう一度、握り直す。まだ、モンスターのHPは残っている。更に、モンスターは追撃しようと、残る5つの足を振り落とそうとする。
「それを食らえば、また相打ちになる。今回は、勝利を受け取りに来たんだ。勝たせてもらう。」
正座後の足のように、ビリビリと痺れる腕を上げ、モンスターの目の前に持ってくると再度、引き金を引く。脱臼してしまいそうな重たい反動が、肩を襲う。
「やっと勝利だ!」
エフェクトが飛び、モンスターは霧散する。
「海斗、多分ハマるだろうなぁ。あぁ、何で俺は一人暮らししてないんだ!やりたいやりたい、ゲームがしたい。俺という最強ゲーマーを感じたい!」
その人のパソコン画面には一ノ瀬 響と多くの賞金が表示された口座が写る。
いつもはYouTubeで活動してます。
別投稿作品の「神々の観る世界 神々に魅せる世界」の裏話や挿絵、紹介動画なんかもしていくつもりなので、そちらも見に来てください。
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