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〜第四楽章〜 コートの守り神

第4話。相棒が現れます。

一見かっこいいけど実はかわいいみたいなイケメン大好き。そんなイケメンが書けたらいいな。

……たぶん無理です。


 ◇◇◇


 ルイはかばんを背負い、人間の少年の姿をとって、ひたすらにモンステラ帝国を目指し西へと歩いていました。

 フェリネを救うため出た一人旅。しかしわからないことは星の数ほどありました。

 一番大きな疑問は……

「フェリネってどこにいるんだろう……?」

 です。

 そう。ルイはフェリネがどこに囚われているのか、全く知らなかったのです。

 それはそうでした。ルイは兵隊から囚われたことを聞いただけだったのですから。知るよしもないのです。

 しかし、ヴェリア王国とモンステラ帝国は犬猿の仲。相手の国のニュースや新聞は、こちらには入ってくることはありません。戦争が終わってなお、二国は睨み合いを続けているのです。

(どうしよう)

 今のところは国から出なければとモンステラ帝国に向かっているけれど。国を出れば、どこに向かえばいいのかは全くわからなくなってしまいます。

 ルイは何度目かわからないため息をつきました。

 その時。

「おや、少年。君は……魔物、だよね?」

 声をかけられ、ルイは顔を上げました。

 いぶかしげな顔でこちらを見ているおじさんがいました。その大きく屈強な体と緑がかった肌から、トロールであることがわかります。どうやら新聞屋の主人のようです。

 ルイは今人間の姿をとっていることを思い出して、慌ててふわふわの耳と尻尾を出しました。

「あ、ぼく魔物です。おおかみ男です」

「ああ、だよね。よかったよかった」

 ひょこひょこと揺れる耳と尻尾に、おじさんは安心したように顔を緩めました。優しく声をかけてくれます。

「さっきは困ってたみたいだけど、どうかしたのかい?俺でよければ力になるよ」

 暖かな言葉にゆらゆらと尻尾が揺れました。ルイはぱっと顔を晴れさせます。

「ほんと!?ぼく、モンステラ帝国の新聞がほしくて……でも、ないですよね?」

 思わず上目づかいになってしまいます。

「……ちょっとならあるよ」

 驚くことに、おじさんは頷きました。

「もちろん数はないけど、最近のあの王女が幽閉されたとか、ああいうのなら。あれは魔物にも関係があることだから、モンステラ帝国から少しもらったんだ」

「ほんとですか!?」

 ビンゴです。これで目指すべきところがわかるに違いありません。

 ルイは財布を取り出しました。

「いくらですか?」

「うーん、そうだね……」

 おじさんは悩むように首を傾けました。

「珍しい記事だしほんとは金貨三枚はいただきたいところなんだけど……君、新聞を買いにくるなんて、きっとお母さんからのおつかいだろ?」

「えっ?えーっと……はい」

 ルイは少し驚いて、それから頷きました。「いえ、そうではなくて、ほんとはぼくモンステラ帝国に行きたいんです」なんて言ってしまえば、さぞかしめんどくさいことになるでしょう。相手がそう思ってくれているのなら乗っかるべきだとルイは首を縦に振りました。

 おじさんは「そうだろう」とルイを見下ろします。

「おつかいなんて偉いから、特別に銀貨二枚だ。残ったのでお菓子でも買いな」

「えっ!いいんですか!」

「ああ」

 ルイはほんとは違うのに、と戸惑いましたが、収入源のないルイが金貨三枚もそう簡単に出せないのもまた事実。ぺこぺこおじぎをしながら、銀貨二枚にまけてもらいました。

 そしてルイは、新聞を手に入れたのです。

「ありがとうございます!」

「ああ、いいさ」

 トロールの新聞屋さんに大きく手を振って、ルイは彼と別れました。




 新聞を読んで、分かったことは二つ。

 一つは、フェリネは牢獄の中にいるということ。オルカ牢獄という、とても大きな牢獄です。大きいと同時にとても頑丈で、逃げることはまず不可能と言われているようです。

 そして一つは、そのオルカ牢獄はモンステラ帝国のはしっこのはしっこ、小さな海スピカ海を越えた先にある小島パルゲリア島にあるということ。わざわざ島の上に建てたのは、きっと脱走を防ぐためなのでしょう。

 と、この二つです。

(パルゲリア島のオルカ牢獄……そこにフェリネはいる)

 きっと、殺されてはいないはず。だってフェリネは、たった一人の王女さま。殺してしまえば次に王さまになるひとがいなくなってしまいます。

 それでも、魔物と仲良くしたことでひどい仕打ちを受けているかもしれない。檻の中で一人、さみしい夜を過ごしているのかもしれない。

 そう思うと、ルイはやっぱり足を止めるわけにはいかないのでした。





 さて、ひたすら西に進んでいると、だんだんと暗くなってきました。それに足もくたくたです。もうしばらくすれば夜。完全に日が暮れる前に、どこか宿を探さなければいけません。

 しかし都合の悪いことにここは田舎町。ルイの村アリアスにも引けをとらないようなど田舎です。あっちを見ても、こっちを見ても、広がるのはまだ芽の出たばかりの麦畑です。

 最悪誰かに泊めてもらうか、野宿か……そう思ったとき。

「ぼうや、こんな夜出歩いたら危ないよ」

 声をかけられました。

 振り向けば、そこにゴブリンのおばあさんが立っています。

 しかし自分の思っていた“ゴブリン”とは少し違う姿に、ルイは少し驚きました。

 ゴブリンといえば小さくかわいらしい容姿が特徴で、友達のティニーなんかが特にリスとかに似ていて愛らしいのですが。このおばあさんは髪はぼさぼさ、服もぼろぼろで、身長さえ小さくなければ鬼ばばと勘違いしたって仕方ないような出で立ちでした。

 しかし声をかけてくれたということは、きっといい人なのでしょう。ルイはそう思っておばあさんの問いに答えました。

「あ、ぼく、お宿をとりたくて。ここらへんで泊まれるところってありますか?」

 すると、おばあさんはにっと笑いました。

「ああ、なら、うちに泊まってくかい?ちょっとわしを手伝ってくれさえすれば、部屋を一つ貸してあげる」

 ルイは驚いて目を丸くしました。

「いいんですか!?ありがとうございます!」

 やっぱり優しいひとだ。見た目で判断しちゃダメだな。ルイはふりふり尻尾を振ります。

 手伝いなんて安いもの。お皿洗いだって洗濯だっておそうじだってお任せあれ、です。

「手伝いって何すればいいんですか?」

 さっそく腕まくりをしながら問うと、おばあさんは振りみだした髪をかきあげ笑いました。


「そうだねえ。じゃあ、魔獣退治を手伝ってもらおうかね」




 魔獣は魔物の一種ですが、少し違います。少なくともいっしょにされると怒るひとが出てくるくらいには違いがあります。

 その分け目としては、『言葉を話すかどうか』です。

 言葉を話し社会の中で暮らすのが魔物、言葉を話さず本能のままに生きるのが魔獣。そう言われています。

 ヒョウとジャガーほどではありませんが、ちょうど人間とサルくらいの違いです。あまり違わないのです。人間なんてたいていサルみたいなものなのですから。

 ただ人間も畑にサルが出るとつかまえるなりジビエにして食べたり(?)するように、魔獣もときに害獣扱いを受けることがあります。

 とくにそんなことをしているのは、魔物より人間のほう。モンステラ帝国には狂暴な魔獣が多く、そのぶん猟師や狩人が多くいると言われます。対してヴェリア王国はそうでもありません。魔物と関わることが多いので魔獣もあこがれをいだき、言葉を覚えることが多いからだと言われています、が。

 それでも、このヴェリア王国にも魔獣を嫌うひとたちは少しはいるわけで。このおばあさんのように、ときどきは退治をするのでした。

 ルイは少し戸惑いました。今まで魔獣退治なんてしたことなかったし、魔獣には手を出すなと言われていたからです。

 しかしこの辺りにはもう泊まれるところなんてなさそうだし、外で寝るのもこわいし……と思えば、もうしたがうしかない気がしました。仕方がないので頷きます。

「……わかりました。でもぼく、たたかうのなんて学校でしかやってないですよ」

 しかしおばあさんは気にもとめないようすで、暗いあぜ道を進んでいきます。

「大丈夫さ、そこまで強いやつじゃない。ただ何度退治してもわいて出てくるから厄介なだけよ。……ほら、いる」

 おばあさんは魔獣を見つけたようで、目をぎらりと光らせるとかぎ爪の生えた手を小さく振りました。魔力が渦巻き、ぼうとその手から光の球が生まれてふよふよと漂います。

 光の先に、数匹のねずみがいました。まとう灰色の毛皮、小さくつぶらな瞳、長い桃色の尻尾。そこまでは、普通のねずみです。

 しかし、その大きさは猫ほどもあって、額には角が伸びていました。剥き出す歯は、乱雑に並んだぎざぎざの牙です。

 その姿は、まぎれもなく魔獣でした。

「ひっ……」

 暗闇にぬらりと光る牙に思わず後ずさるルイ。

 そのとき、一匹のねずみがシャッと鳴き声をあげておばあさんに飛びかかりました。

「ギャーッ」

 おばあさんが悲鳴を上げました。

「おばあさんっ!」

 ひるむルイ。その足元でおばあさんはうずくまり、足を押さえています。

 咬まれたのでしょうか……!?

 もしそうなら、早く魔法をかけて治さなくては。でも、その前に。

(たおさなきゃダメだ)

 ルイは自分に言い聞かせました。おびえてなんていられません。まだけがをしていない自分が、おばあさんを守るのです。

 ルイはつばを飲み込んで、ねずみと向かい合いきっとねめつけました。

「ガオオッ」

 声にちからを込めて、強く吠えます。

 低く短い声がとどろくと同時に、音波が放たれたようにねずみたちが跳ね飛ばされました。

 逃がす隙を与えず四つんばいになって前足で地面をひっかくと、生き物のように青白い電流が四方に走ります。

 バリバリバリッ!

 闇夜を引きさく雷光がひらめいたかと思うと、ねずみたちがばたばたといっせいにたおれていきました。

 ルイの電流に打たれ、気を失ったのです。

 あっという間にねずみたちは静かになり、森の中には静寂が訪れました。

(ふー……)

 ルイは息をついて立ち上がりました。学校でやった簡単な魔法だけれど、どうやら役に立ったようです。

 と、ルイは今さらここでおばあさんのことを思い出しました。急いで後ろを振り向きます。

「だ、大丈夫ですか、おばあさ────────……?」

 ルイの言葉が困ったように止まります。当然です。

 振り向いたそこに、おばあさんの姿はなかったのですから。

(あれ……足、けがしたんじゃなかったの……?)

 いや、まさか。あんなに足を押さえていたんだから。

 でも、ならどうしていない?瞬間移動でもしたのか?でもどうして……?

 首を傾げ立ちつくした、そのとき。


 ガッ!


 後ろからはがいじめにされ、ひゅっとのどが鳴りました。

 おばあさんが黄色い牙をむき出し、肉食獣のような笑顔を浮かべてルイを抱えていました。

「最高だ、こんなに強いなんて……」

 ぼそぼそとつぶやくその声に、背筋が冷えていきます。

 何を考えているのか、何をしたいのか。わからないけれど。


 こわい。


 逃げなきゃダメだ。


 ルイは毛を逆立てて、身をよじりました。

「っや、やめて!放して!」

「大丈夫だよぼうや、こわがらないでいい」

 うっそりと微笑み、おばあさんはささやきます。

「それに朗報さ、ぼうや、お前はずっとうちにいていい。ずっと泊まってていいよ」

 腕を回したまま、にやりと笑うおばあさん。

「う、うるさい!は、放せって言ってるじゃないかっ。ガルルルルッ」

 ルイは牙をむき出し威嚇しますが、おばあさんは微笑んだまま。

 当然です。大人のおおかみ男ならともかくも、自分よりも小さな子おおかみなど誰がこわがるでしょうか。

 絶望が胸の中を支配していきます。

 もうダメだ……

 そう思った、その瞬間でした。


「放しやがれ、ババア!」


 うなるような低い声と共に、ガンッと強い衝撃が走りました。

 驚くルイの後ろで、ギャアッと鳥のような悲鳴をあげたおばあさんが頭を押さえたおれていきます。口からは泡が吹き出し、ぎらぎら光っていた瞳はぐるりとひっくり返っています。

 殴られでもしたのでしょうか……?

 すると、ルイの体はひょいとうきました。たくましい腕に抱えられます。


「大丈夫か、ぼっちゃん」


 ルイを抱えた男がこちらを見下ろしました。

 男は、どうやら動物の魔物のようでした。細長いぴんと立った耳と、なびくような長い尻尾が特徴的です。つややかに伸びた白い髪は高くひとつに結んで、涼やかな漆黒の瞳でこちらを見つめていました。

 上品でしなやかなその姿にまるで馬のようなひとだ、と思うもつかの間、ふしぎそうにこちらを見ているのに気づき慌てて言葉を返します。

「あ、えーっと、大丈夫です。ありがとうございます」

 そう返すと、長い耳がひょこ、と揺れました。

「大丈夫ならいいけどよ。何ひよこみたいにのこのこついてってんだ、もうちょい警戒しやがれ」

 男はあきれたようにため息をついて、白い髪を揺らします。なんともがらの悪いその態度にルイはびびりながらも、「す、すみません」と頭を下げました。

 男はおばあさんを見下ろしました。おばあさんは男にけられたのか、気を失ってたおれています。

「こいつは危険だ。てきとうなところに放っておく」

「……」

 このひとだれなんだろう。

「あ、泊まるところな。この辺りにはなさそうだなあ」

「………」

 え、ほんとにだれ。

「あ、そうだ。じゃあお前は、おれが運んでやるからそれで寝とけ」

「…………」

 ルイは首を傾げてただそれを聞いていました。

 いや、だからだれ。

「……どうした、黙って?」

 何も言わないルイに、さすがにずっとひとりでしゃべっていたマイペース男も首を傾げます。

「えっとぉ……」

 ルイは、おそるおそる気になっていたことを聞いてみました。


「あなたは、だれなんですか?」


 男は一瞬目を丸くして、すぐに表情をゆるめました。

「ああ、なんだ、そんなこと。たしかに自己紹介してなかったな」

 男は長い耳をぴくんと揺らし、不敵に笑いました。


「おれの名前はバリオス。そのコートの、つくも神だ」






 つくも神。

 長い時間をかけてものに宿り、持ち主を守る神さまです。

 どうやらルイがまとっているコートはずいぶん昔に、冒険好きな息子を守るようにと父親が作った手作りのもののようです。それが長い長い時間をかけて命を宿し、胸の刺繍の馬の姿となってルイの前に現れたのでした。




 さて、おばあさんをお家まで運んでから、二人はねずみのいなくなった森の中で二人向き合いました。

「あー、お前は……」

「ルイです。おおかみ男のルイ」

「ああ、ルイな。ルイは、リチャードの息子か、孫か。よく似てるな」

 ほう、と男ことバリオスがうなりました。

 そういえばリチャード────すなわちおじいちゃんも、幼い頃に冒険に行ったときはこのコートをまとっていたと言っていた気がします。

 そして冒険に出る前、このコートがきっと守ってくれると、そうルイに伝えたのは。

 それは、こういうことだったのです。

(おじいちゃんもバリオスさんといっしょに冒険したんだな)

 しみじみとしているルイとは逆に、バリオスはなんだか不満そうでした。

「せっかく、あのねずみどもを退治してかっこいいとこ見せようと思ったのに。おまえ、余裕でたおしちまうじゃないか。おれの出る幕がないぜ」

「助けてくれたのかっこよかったですよ、バリオスさん」

 むすっと不機嫌な彼にそうルイがほめると、バリオスは「ふーん……」と小さく返事をしました。うれしくないのでしょうか、無表情です。尻尾や耳は揺れているけれど。

 首を傾げるルイに、バリオスはごまかすように大きな声を出しました。

「ってか、それより、その敬語やめなよ。さん付けもなし、なし。おれのことはバリオスでいい。おれもルイか坊っちゃんって呼ぶから」

「わかり……いや、わかった。じゃあぼくも、バリオスって呼ぶね。あと坊っちゃんはやめて」

 ルイはそう返し、にこっと笑って手を差し出しました。バリオスもにやっと笑って、大きな手を出します。

「じゃあ、バリオス。ぼくのこと守ってね。期待してる」

「おう、ルイ。まかせろ。お前も頑張るんだぞ」

 二人で笑い合って、ぎゅっと手をにぎりあいました。


 握手。

 お互いを信じ合い、助け合い、守り合うこと。それを誓う、約束の合図です。




 かくして冒険は始まります。

 人間の王女を助けに向かうおおかみ男と、コートに宿る馬のつくも神が手を組んで。




 さあ、物語が始まります。

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