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【小説】星の欠片を集めて汝は


 夜空を彩る星々は、無数の命を象徴するかのように輝き、産まれては消えてゆく。

 ある星は白く大きく輝きを放ち、またある星は瞬いて雲の影に消えた。

 月明りを頼りに、ほんのひと時裏の小高い丘に上り、(ほこら)(のぞ)き込んだ少年は小さな石を指先でそっとつまみ、ポケットにしまい込んだ。

 流れ星が一筋、夜空に線を描く。

 傍らの木々が(ざわ)めき、生暖かい夜風が頬を撫でる。

 東の空に暁月 優人(あかつき ゆうと)は、へびつい座に目を留めた。

 18歳になったばかりの彼は、毎日石を集めては夜空を眺めていた。

 さそり座の心臓、アンタレスがひときわ輝き、じっとりと汗ばんだ少年の顔を照らす。

 今日の収穫の感触を右手で確かめると、(きびす)を返して丘を降りて行った。

「お兄ちゃん、また裏山に行って来たの」

 妹の(りん)は、頭の後ろに腕を回してヘアゴムで髪を縛ると、食卓についた所だった。

 父親は5年前に愛人と共に蒸発し、肺を病み、心も病んだ母親は療養所にいる。

 最低限の生活費で、やっと暮らしていける程度だった。

「ああ」

 短く返事をすると、兄は向かい側の席に着いた。

 ()せた凛の腕をじっと見つめて優人はため息を()らした。

「世の中は、不公平だな」

「何、私はこの生活に満足してるよ」

 ゆっくりとポケットに手を突っ込むと、祠の石を取り出して、テーブルの隅に置いた。

 白い天板に、シーリングライトの光が落ちて、半透明の石を突き抜けると影の一部が強烈に明るくなった。

「俺は、たくさん集めたいんだ。

 この命を燃やして、誰よりも多く集めて高みへ行く」

 ご飯と(いわし)、そして味噌汁という質素な夕食だった。

 米の一粒をしっかりと噛みしめながら、妹が言った。

「お兄ちゃんって、上昇志向だよね。

 うまく言えないけど、誰にも真似(まね)できないようなことを、きっと成し遂げると思うよ」

 窓の外には、先ほどのアンタレスが輝いていた。

 身体にまとわりつくような熱気を、団扇(うちわ)(あお)ぎながら、へびつかい座の(きら)めきに目をやっていた。


 スコールのような激しい夕立が来て、雷鳴が(とどろ)く。

 その一つが、裏の丘に落ちて家の中まで閃光が走った。

「うわっ」

 部屋に(こも)っていた優人の声が、リビングでお茶を飲んでいた凛の耳にも届いた。

 彼女も危うくティーカップを叩き落としそうになりながら耳に手をやっていた。

「今の、すぐ近くに落ちたみたいね。

 2階まで届く大声で言ったが、返事がなかった。

 一瞬停電になったようだが、すぐに灯りがついた」

 10分ほどで嵐が過ぎ、雨音が止んだが外は暗いままである。

「ちょっと、様子を見てくる」

 階段を降りながら兄が言った。

 凜も椅子から立ち上がったが、手で制して、

「お前は夕飯の支度でもしていてくれ」

 と言って出て行った。

 丘の上に、わずかな光が差していた。

 雲の切れ間から、一筋、まるで空から切り分けたように。

 丘の上に2人の人影を認めた優人は、目を凝らしてそちらへと登っていく。

 数えきれないほど行き来した道だが、うちの兄妹以外の人が来たのは初めてだった。

 見たこともないほど大きな斧を担いだ、髭面(ひげづら)の大男が、ツノを生やした(かぶと)の下から鋭い眼光をこちらに投げかけた。

「おい、人間が来るぞ」

 大男は、傍らにすらりと立つ、黒衣に身を包んだ髪の長い影の方へ言った。

 家の玄関を出た凜は、丘の上に大男と痩せた女、そして兄の影が何か話している様子を認めた。

「誰かしら」

 普段と違う光景に、足を止めて丘の方をしばらく見ていたが、意を決して近づいて行った。

 足元はびしょびしょに濡れていて、ところどころ水が淀んで泥水を溜めている。

 水たまりを器用に避けながら登っていくと、突然目も眩むほどの光に包まれた。

 硬く目を閉じ、両手を前にかざして光を(さえぎ)ろうとしたまま立ち止まる。

  再び目を開けると、3つの人影は消えていた ───


 嵐の日に兄が消息を絶ってから、1年が過ぎた。

 17歳になった凜は、独りでリビングの食卓に着いた。

 誰もいない家には、扇風機の音と蝉の声が、やけに大きく響いた。

 あの日からしばらくは、心当たりを探したりもしたが、今は心静かに毎日を粛々と過ごしている。

 成績優秀だった兄は、妹によく勉強を教えてくれた。

 口数は少ないが、頼りになる兄だった。

 家の中は閑散としたものだったが、凛の心の奥底には確信があった。

 兄は生きている。

 血を分けた肉親だからこそ、感じるのだ。

 キッチンのカウンターには、兄の写真と共にラピスラズリのような深い青の宝石が鎮座していた。

 この石は、2年前に初めて祠で石を見つけたときに、兄と交換したものだった。

 兄と妹は、同じ日にたまたま祠の前を通り、それぞれの石を見つけた。

 大きな兄の石は海のように深い青。

 小振りな妹の石は透き通るような赤だった。

 兄の机の引き出しからは、凛の石を含めて、すべてのコレクションが消えていた。

 つまり、兄が残した石は、始めに見つけたこの一つだけなのだった。

 高校は夏休みに入り、お盆で誰も友達がつかまらない日は、とてもゆっくりと時が流れた。

 兄に悪いと思いながらも、1年も留守にした部屋を片付けようと思い立つ。

 そして、机の引き出しの奥にしまってあった日記帳を見つけたのだった。

 凜は、食事を終えると、傍らに置いてあった日記帳をめくり始めた。

 それは、裏の祠で石を見つけてから、毎日どんな石を、どんな状況で持ち帰ったのかを詳細に記したものだった。

 半年ほど、単調な記録が続いたある日、気になる書き込みがあった。

「この石は、もしかすると人間の魂なのかもしれない ───」

 思わず読み上げた凛の心は、穏やかに波立った。

 魂を集めている ───

 なぜそう思うのかはわからないが、兄の力強い石と、自分自身の小さな石。

 それが自分の魂だとしたら、今石はどうなっているのだろうか。

 物思いに(ふけ)っていた耳に、突然雷鳴が轟いた。


 スコールのような雨と強い風、そして雷鳴は段々と近づいてくる。

 大きな雨粒が窓を叩き、木々がうなりを上げ、外は夜のように暗くなった。

 兄が消息を絶った日と同じ光景に、胸騒ぎを感じた凜は、兄の石を手に取ると握りしめた。

 そして、またしても裏山に雷が落ちる。

 耳をつんざく轟音(ごうおん)に一瞬飛び上がった。

 雨が小降りになってきた頃、ゆっくりと玄関のドアを開けた。

 水たまりを避けながら大股で丘を登っていく。

 祠を視界に捉えたとき、2人の見知らぬ人影を認めた。

 大きな斧を担いだバイキングのような大男と、スラリとしたローブを(まと)った女性。

 まさに、1年前に兄が消えた日と同じだった。

 近づいていくと、次第にしっかりと視界に捉えた2人は、こちらに視線を向けていた。

「あの ───」

 兄の消息を知っているはず。

 気持ちは()いたが、何を言えばいいのか分からなくなった。

 口をパクパクしたまま、突っ立っていると女の方が口を開いた。

「私は魔女・キルケ。

 ユウト様が、あんたを気にかけていてね。

 様子を見てきて欲しいと命じられたのだよ ───」

 男の方は、斧を祠に立てかけて髭面をクシャクシャにしながら笑顔を作り、

「ギムリだ。

 人は俺を、ドワーフ王と呼ぶ。

 あんたはユウト様の妹さんだな」

 凜は「あー」とか「うー」とか言葉にならない呻きを口にするばかりで、目を丸くして手をヒラヒラ動かすばかりである。

「説明するより、連れていった方が早いんじゃないかしら」

「うむ。

 どうかな、お嬢さん。

 俺たちと一緒に来るなら、ユウト様に会わせてやろう。

 どうするかは、自分で決めたらいい」

 ポーチに入れていた石を取り出した凜は、じっと見つめた。

 吸い込まれそうな青い宝石は、いつもより黒ずんでいるように見えた。

「それは ───」

 ギムリは何かを言おうとしたが、キルケが手で制した。

「わ ───

 私、行き、ます」

 喉の奥から絞り出すように、やっとの思いで口にした。

 次の瞬間、白い閃光が辺りを包み、地面が消えて落ちていく感覚に襲われた ───


 全身がグニャリと歪む感覚が消え去ると、足元に接地感が戻ってきた。

 危うくよろけそうになった凜を、ギムリの丸太のような腕が受け止めた。

「おっと、大丈夫ですかな」

 ニコリとして見せたのは束の間、すぐに周りの景色を見て肩をすくめた。

「本当に、来る価値があったかしらね ───」

 数歩踏み出したキルケは、煙を上げている街並みに眉根を寄せた。

「これは、大地震でもあったのですか」

 おずおずと、凜が尋ねた。

 だが2人は、何も答えなかった。

「とにかく、あなたの目で確かめてごらんなさい。

 この惨状を ───」

 石造りの店が崩れ、呆然として立ち尽くす人。

 暗い路地に座り込んですすり泣く人。

 担架に乗せられた人が運ばれていく。

 街の中心に、鐘楼(しょうろう)が建っていた。

 広場には、たくさんのけが人が寝かされている。

 石畳(いしだたみ)の通りを歩いて行くと、廃墟(はいきょ)と化しつつある街並は終わった。

 草原を少し歩いて行くと、木立の陰から男が現れた。

 黒いローブに身を包み、フードで頭を隠していた。

 ドワーフ王と魔女は、その男の後ろに回ると片膝をついてこちらを見据えた。

「凜 ───」

 聞き覚えのある、懐かしい声に胸が詰まりそうになった。

 その男は、(うつむ)いて何事か逡巡しているようだった。

 空は厚い雲で覆われ、今にも降り出しそうな暗さである。

 改めて周囲に目をやると、ところどころが焼け()げ、大地には大穴があちこちに口を開けていた。

「凜よ、お前には、見て欲しくなかった。

 兄の、成れの果てを ───」

「兄さん」

 フードを片手で跳ね上げると、懐かしい顔が現れたのだった。

 顔を伏せたまま、キルケが言った。

「ここは、エスペランサ王国。

 廃墟と化した街は、永遠の都と言われたエテルノでございます、リン様」


 1年前 ───

 雷鳴と共に現れたドワーフ王と魔女は、丘を登って来る若者を認めた。

「私たちは、優れた知恵を持った王の中の王を探しに来ました」

「俺たちの国には、どこを探しても愚か者しかいない。

 皆、己の欲望を満たすためだけに生きる、(けだもの)同然の、人の皮を(かぶ)った魔物たちだ」

 優人は、握りしめていた数個の星の欠片(かけら)を開いて見せた。

 2人は大仰(おおぎょう)(うなず)き、目を輝かせた。

「おお、これこそ、人の上に立つ者の証」

「魂を掌握(しょうあく)し、世界を導く王の元に、星の欠片が集まったのです」

 そして濡れた地面に膝をついた2人は、優人と共に光に包まれ、消えて行った。

 ついた所は、隠された都・シャンバラだった。

 古代の遺跡の神殿に、異形のモンスターや戦士が守備を固め、ユウトが現れるのを待っていたかのように、地に膝をついて拝礼した。

 小高い丘の上には天を突くような魔王城が(そび)え立っている。

 玉座へと導かれたユウトは、おびただしい星の欠片の山の(かたわ)らにある王の席に着いたのだった。

 それからというもの、昼間は玉座で来客を迎え、夜は宴会に明けくれる毎日が続く。

 勉強も、仕事もする必要はなく、声をかければ何でも手に入れることができた。

 この異世界では、何もしなくても生きていける。

 そして、周囲からは敬意を持って受け入れられた。

 そんなある日、

「王、ユウト様、勇者が攻めて参りました!」

 斥候(せっこう)らしき兵が息せききって報告した。

「さあ、お逃げください、ここは私たちが食い止めます」

 魔女・キルケが詠唱を始めると、辺りが薄暗くなった。

 ドワーフ王・ギムリは特大の戦斧を構えて外を(にら)()えた。

「我が名はガイウス・ドラゴンスレイヤー!

 魔王ユウトめ、国民を苦しめる非道の僭主(せんしゅ)の首を取りに来たぞ。

 尋常に勝負しろ!」

 威勢のいい声を背中に聞きながら、ユウトは必死に山を駆け降りた。

 魔王城は、魔法の爆音と共に崩れ、ガラガラと大小の岩が転がり落ちてきた。

 力を振り絞って走るユウトの周りには、誰もいなくなっていた。

 街から抜け、森に身を隠そうとしたときだった。

「見つけたぞ、こっちだ!」

 背中に羽が生えた人間が、空から一直線に飛び掛かってきた。

 街の方からは先ほどの勇者と魔法使いらしき女が駆けてくる。

 逃げきれないと見ると、振り向いて3人と|対峙《》したユウトは、平静を装いながら頭をフル回転させた。

「我が(しもべ)を倒し、よくぞここまで来た。

 名を聞こう」

「勇者・ガイウス・ドラゴンスレイヤー」

「魔法使い・ウィッチ・オブ・ジ・イースト」

「妖精王・ルナ・クイーン・オブ・フェアリーズ」

 今にも襲いかかろうとする3人へ向けて、ユウトは咄嗟(とっさ)に両手を広げて突き出した。


 固く目を閉じ、ユウトは死を覚悟した。

 どれくらい経っただろうか、そのまま3人は動かなくなってしまった。

 手の中には3つの星の欠片が収まっており、どの石にも無数のヒビが入っていた。

 そして勇者たちは崩れ落ち、息絶えてしまったのだった。

「ユウト様!」

 ギムリとキルケは傷を負い、血を(したた)らせながら走り寄った。

「心配いらんよ。

 この通りだ」

 地面に()した勇者たちを目で示すと、星の欠片を投げ捨てた。

 魔王城へ戻ったユウトは、瓦礫(がれき)と化した有様に激怒した。

「おのれ、許さぬぞ」

 玉座の周囲に集めてあった星の欠片を叩き割り、すべて粉々にしてしまったのだった。

 その日から、ユウトが率いる魔王軍は、近隣諸国に攻め入り、略奪と破壊、殺戮の限りを尽くした。

 まさにこの世の地獄絵図が描かれ、阿鼻叫喚(あびきょうかん)の有様だった。

 手に入れた星の欠片を、ことごとく破壊し野に火を放った。

 街には孤児が(あふ)れ、店から商人が焼け出され、食料さえも手に入らなくなる。

 仕事を失った民衆が略奪を始め、盗賊が跋扈(ばっこ)するようになる。

 田畑は踏み荒らされ、国はあっという間に荒廃してしまった。

「王様、少しでいいのです。

 食べ物を私たちに分けてはいただけませんか」

 小さな子どもが(すが)りついてきた。

 その子を蹴散らし、ユウトは鬼と化した。

「食料を集めろ、大人は奴隷にする。

 連れていけ」

 人の道を外れた行為だと、ユウトも分かっていた。

 子どもたちを路頭に迷わせるのは、大人の欲望の成せる業である。

 身勝手な振る舞いが、不幸な子どもを生みだし、国を荒れさせる。

 嫌というほど噛みしめてきた屈辱の生活から、抜け出した先には大人と同じことをする自分がいた。

 星の欠片は、産まれては消え、手に入れた光を砕き、魂を天に返す。

 これが人間だ。

 俺は、ただの人間だ。

 ユウトの胸には、ポッカリと暗い穴が空いていた。


「魔法も剣の扱いもできない俺には、星の欠片以外に戦う(すべ)がなかった」

 シニカルな笑いを浮かべて、ユウトは空を見上げた。

「やっぱり、お兄ちゃんが言う通り、宝石は人の魂だったのね ───」

 夜空の星は、元の世界と変わらなかった。

 東の空にさそり座の心臓、アンタレスが妖しく光る。

 不意に、流れ星が幾筋も落ちていった。

「また、星の欠片が生まれた」

 ユウトの手には、鮮やかな光を放つ石が握られていた。

 それらを投げ捨てると、(ふところ)からもう一つ取り出した。

「これは ───」

 ゆっくりと一本ずつ指を開くと、透き通ったピンクの石が、姿を現した。

「この石は、どんな石よりも美しく、(いと)おしかった」

 ゆっくりとリンに向かって歩を進め、両手で包むようにして手渡した。

「お兄ちゃん」

 大きく(かぶり)を振ったユウトは、真っ直ぐに妹を見つめる。

「俺が生きている限り、この世界の住人は幸せになれない。

 剣と魔法のファンタジーの国、エスペランサ王国に平和をもたらすために、俺は死ぬのさ。

 さあ、魔王に誇り高き死をもたらせ、リンよ」

 双眸(そうぼう)を固く閉じ、両手を広げた兄の姿は、十字架の磔刑(たっけい)のようだった。

 ポーチに自分の石と兄の石を、大切にしまい込んだリンは、キルケに命じた。

「魔王ユウトの妹の名において命ずる。

 兄を、魔王を(いかずち)と共に、現世へ戻したまえ ───」

 コクリと頷いたキルケは右手を天に伸ばした。

 暗い雲が空を覆い、激しい雨と風、そして稲妻が幾筋も走り、辺りを照らしたかと思うと、4つの人影は消え去った。

 嵐はすぐに去り、星空が戻ってきた。

 月は明るく照らし、巨木がうねるように枝を伸ばし、雨の雫が葉を伝い落ちたのだった。


 東京の専門学校で、プログラミングを学んだ優人はSEとして仕事を始めていた。

 家賃を抑えるために、相変わらず凛と2人暮らしをして、忙しい毎日を送る。

 ビジネス系の専門学校へ通う妹の方も、資格を取るために夜遅くまで勉強を続けていた。

 故郷の裏庭の祠は、あれ以来星の欠片を見かけなくなった。

「あれが夢だったとか、異世界のことだから関係ないだとか言うつもりはないが、死ぬ気になれば何でもできる」

 と何かを振っ切ったように仕事に打ち込む兄は、以前よりも輝いて見えた。

 失踪していた父から学費を半分ずつ出してもらい、残りは奨学金を借りた。

 家族がバラバラになった日から、噛み合わなくなっていた歯車が、星の欠片のお陰で回りだしたのかも知れない。

 薄いピンクの、透き通るような石。

 深く青い大きな石。

 2つの石が、窓からの光に照らされて、ひときわ気高く輝き、鮮やかな色に(きら)めく。

 部屋の片隅にヒノキの台を設え、輝く石は鎮座していた。


 エスペランサ王国の魔王城は解体された。

 新たに城を建設し、ギムリが崩壊した街の再建に乗り出した。

「どうかしら、玉座の座り心地は」

 口元を歪めてキルケが言った。

「やめてくれ、王様なんて柄じゃないぜ、俺は」

「あら、ドワーフ王なんて呼ばれてるでしょうに」

「戦斧を振り回して戦ってた頃の呼び名だぜ、あれは」

「ユウト様とリン様は、エスペランサ王国を一歩前に進めるために現れたのかも知れないわね」

 長い後ろ髪をたくし上げ、キルケは外に視線を投げた。

 星屑は、どこまでも広がり、流れ星がまた落ちていく。

 さそり座の心臓は、脈打つように力強く(またた)いていた。



この物語はフィクションです


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