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人は殺したら死ぬ。殺さなくても死ぬ。

「はぁぁぁあ!」


タートルネックのおっさんが放った斬撃が群がってくる衛兵たちをなぎ払う。

カトラスのように軽そうな剣なのに、なんであんな一撃がでるんだ。


だがそれでいい。


そうじゃなければ俺は死ぬ。



「ふっ!はっ!」


高校生が放った魔術の雷撃が弧を描き、波状の防衛線を引く。

直撃した壁には、樹上の焼き痕が広がる。

空気を切り裂く轟音がぐるぐると駆け回る。


当たったら麻痺るのだろうか。

酸欠が怖いので炎魔法はあまり使わないで欲しい。


パシュッ!パシュッ!


弓が空を切る音が響く。


俺も弓を撃つ時に何か言った方がいいかもしれない。


「おいぃっ! おいっ!おいっ!おいっ!」


「あいっ!あいっ!あいっ! あいぃっ!」


弓道は高校の部活動くらいまでは静かに射るが、大学サークルくらいまでいくと割とうるさい。

本当に面白いくらい当たるし、適当に力を込めて射れば技術も必要ない。


「あいっ!あいっ!あいっ!あいっ!」


ちなみに、この武器は持ち主の手から離れると消えるらしい。

再び意識すれば戻ってくる。


本当に都合がいい。


だがこれがなければ死んでいた。


「おいっ!おいっ!おいっ!おいぃぃっ!」


「いいのっ?!いいのっ?!やっちゃっていいのっ?!」


「いいのっ?!いいの?! や っ ち ゃ っ て ー!」


あっ、しまった。


W大学高田馬場コールがでてしまった。


ディ○二ーランドのジェットコースターでも使ったし、体に馴染んでしまっていたのだろう。


「ゆかり飲んでなくない?!WOWWOW! ゆかり飲んでなくない?!WOWWOW!」


他の三人にドン引きされてしまっただろうか…


そっと視界を移す。


よかった。

自分のことで精一杯のようで、こっちのコールには気づいていない。


「はい‼ おっぱい‼ ま○こ‼ ま○こ‼ ち○こ‼」


「おっぱい‼ ま○こ‼ ま○こ‼ ち○こ‼」


よし、OMMCも成功だ。


弓の滑りは最高にいい。


ありったけの力を込めて弦を引く。


「おま○こしょっぱっぴー! 舐めたらホッケッキョー!」


ドシュッ!バリュリュリュリュリュ!


なんか出た。


放った弓が龍のような迸るオーラを纏って暴れ回る。


謎龍くん。ありがとう。


「ズッコンバッコン! ズッコンバッコン! チン毛! マン毛!」


俺が矢を射るたび龍が呼応し、雷鳴が鳴り響く。


ノリがいい奴だ。

内容がこれだけ下品でも付いてきてくれるのか。

いや、これもある種の生命賛歌だ。

納得だ。


これから先は語るまでもないだろう。


「いっきっきの~き~! いっきっきの~き~!」


俺たちの攻撃を浴び続けた王国は焦土と化した。

地平線が平らになる頃、俺たちはようやく事の重要性に気づいた。


言い訳させてもらうと、俺は元来こういうノリで動くような人間ではないのだ。

俺という人間は、教室の隅の方で本を読むか、ソシャゲするタイプの人間だ。


だが俺には「いざという時、見境がなくなる」という欠点があった。


ソーラン節の時には、練習ではほぼ声を出していないのに、本番で馬鹿でかい声を出し周囲をたじろがせるという高い奇襲性能を示した。

合唱コンクールでもそうだ。


現在の学校教育制度をすり抜ける恐ろしい性格だった。

運動会などの行事は、例えある程度酷い出来映えでも、教員陣は生徒たちの頑張りを鑑みて、成功したと言わざるを得ない。

それに加えてクラス替えがある。


こうして、俺は周りと変わらないただの生徒に戻るのだ。


親には発達障害を疑われたが、平常時の陰キャムーブでゴリ押した。


精神科では内圧が高めとか、緊張しやすいとかその辺の言葉で落ち着いた気がする。


その欠点が今、初めて俺の助けになった。


命がつながれた。


俺は感動していた。



「っ!…やったぞ!」



仲間の元に駆け寄る。



「お!なんだ…兄ちゃんか。」


何やら、いぶかしげな顔をしている。


「兄ちゃん、あれが見えるか?」


「あれはっ!」


それは一番最初に焼き尽くした王国の中心部、王城から湧き出ていた。


黒いオーラ。煙と液体の中間のような外見。

地下から湧き出でてきているらしい。


「攻撃しますか?」


「もう既に攻撃した。剣圧で範囲攻撃したがダメだった。おそらく兄ちゃんでも無理だ。」


「じゃあ、あれはどうやって…」


「まだ存在しない”何か”だ。こちらからは触れられないし、向こうからもきっとそうだ。」


未知の敵。

それも今の段階では対処しようがない。


「四人とも、逃げるぞ。」


死体から硬貨や金品を抜いた後、俺たち四人はその場を離れ、隣の王国まで向かった。

移動は船とゴーレムだった。


その間に自己紹介を行った。


「年齢順でいくぞ。俺は二股白也ふたまた しろや。50歳。武器は剣だ。」


よく手入れされたツーブロックと顎髭。

グレーのタートルネックに紺の鞘のサーベルが映える。

顔には深いしわが刻まれているが、表情豊かで年齢を感じさせない。

接客業だったのだろう。

推察や交渉の手際では目を見張るものがある。



「次は僕っすね。酒女暴力さけおんな ぼうりょく。27歳っすね。武器はドローンっす。」


だぼっとした服にサンダル。爆薬をつけたドローンを相手にぶつける戦闘スタイルだ。

両親が警察官だった反発で、髪にメッシュを入れたらしい。

前髪が重いのとピアスで人柄を勘違いしていたが、普通にいい奴だ。

長年彼女のヒモだったらしい。

いちもつがでかい。



「その次は俺か。楽天門眞らくてん かどま。19歳。武器は弓。」


自分で言うのもなんだが、ずっと上裸だったからやばい奴と思われていたかもしれない。

持っていたリュックサックは、さっき、城と一緒に焼けた。

死体からはぎ取ったネックレスや指輪、腕輪をジャラジャラさせている。



「最後は僕ですね。親不知映太おやしらず はえた。16歳。武器は魔術です。」


言うまでもなく本日のMVPだ。

制服のブレザーとスラックスはぶかぶかでニキビ面の陰の戦士。

結局携帯は使えないようだが、魔術を用いて電波を拾おうとしている。

この四人の中で唯一の童貞だ。


頑張って欲しい。


「それ。着いたぞ。最初の町だ。」


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