986 聖女の才 下
「もし、判断ができないというなら一つ、選択肢を提案させていただきますよ」
たぶん、ラーレシム様のことで公爵様の頭はいっぱいでしょう。天能は家の秘密兵器みたいなもの。手放すことはしないでしょう。
わたしも小さい頃に天能がわかっていたら、どこかの家に買われるか嫁がされたでしょうね。隠しててよかった~。
「な、なんでしょうか?」
「タリール様をわたしに預けることです。今の状況でタリール様の才を知っているのはわたしたちだけ。この馬車での会話は誰にも聞かれておりません。公爵様だけに話せば外に漏れることはないでしょう」
いい感じの魔力を持ち、シューティングスターに気に入られている。わたしとしてはありがたい存在だ。おっぱいが育っていく過程も見られるしね。
「あくまでも提案の一つであり、公爵様が決めることでもあります。わたしは、タリール様のことはしゃべりません。自分に利がないのなら面倒事は極力回避しますので」
見返りもないのに面倒事に首を突っ込むつもりはないわ。おっぱいにならいくらでも突っ込むけどね!
「……チェレミー様、タリールをどうするつもりなので?」
「貴族の女性として教育はします。コルディーを支える強き女性として。ただ、わたしが教育すると婚期は逃してしまうかもしれませんね。自由を得るためには知恵と力、権力を手に入れろと教えますから」
わたしはおっぱいを一人占めするつもりはないけど、結婚がすべてとは思わなくなってしまうでしょうね。生き甲斐を与えてしまうから……。
「女性としての幸せというものをわたしは知りません。欲しいとも思いません。わたしはわたしの人生を送りたいから。そんなわたしには女性としての幸せなんて与えてあげることはできません。教えてあげることもできません。そこを心に止めておいてくださいませ」
どう判断して、どう決断するかは公爵様次第。わたしはそれを尊重するわ。
「……わかりました。提案、ありがとうございました……」
「いえいえ。ジーヌ家のお力となれていたら幸いです」
「──お嬢様。騎士様が速度を落としました」
と言うので御者台に出てみた。
ちょうど林を抜けたところで、視界一面に湖が現れた。
「ここはここでいいところだわ」
「お嬢様。あそこのようです」
ロエルが右側を差した。
そこは砂浜になっており、小屋が建てられていた。
「ラインフォード様のところへ」
林の中に広場があり、そちらに向かわせた。
「騎士様方、周辺の偵察をお願いします」
ラインフォード様には申し訳ないけど、シューティングスターのあとを追って疲れているでしょう。こちらで指示を出させていただきます。




