962 ヤーファル商会支店長 下
「ラインフォード様。少しよろしいでしょうか?」
様子を見に来たラインフォード様に声をかけた。
「ああ、どうかしたか?」
「騎士様を十人ばかりお貸しいただけますか?」
「構わないが、なにをするんだ?」
「障害物を作ろうと思いまして。まあ、遊び道具ですね」
アスレチックと言ってもわからないだろうから、障害物と表現しておく。
「チェレミー嬢が使うのか?」
「はい。ちょっと運動したくて」
前世の幼少の頃、従姉とアスレチックで遊んだものだ。
……あの躍動するおっぱい。転生してもまったく色褪せないわ……。
「わかった」
と、なぜか騎士団総出でやって来た。わたし、十人ばかりと言ったよね? いつもどこで改竄されるのかしら……?
「と、とりあえず、均等な丸太を集めてください」
「よし、お前たち、やるぞ!」
おー! と駆け出して行く野郎ども。うん、まあ、やる気があってよし、だ。
次の日にはヤルゴが船大工を二十人も連れて来た。
……なんだろう。わたしの言葉って伝わり難いのかしら……?
「こんなに連れて来て大丈夫? 無理をしなくてもいいのよ」
さすがに二十人は連れて来すぎでしょう。それともジーヌ公爵領では船大工が余っているわけ?
「大丈夫でございます」
自信満々に言うヤルゴ。本当か?
「まあ、いいわ。無理を言って来てくれたのだから給金は弾ませてもらうわ」
連れて来たのなら仕方がない。そこはお金で応えるとしましょうか。
「まずは桟橋をお願いするわ。そこまで強度は求めないわ。いいかしら?」
船大工の棟梁らしき人を見た。
「は、はい。それなら一日もかからず作れます」
え? 一日で作れるものなの? 凄くない?
心の中で驚いたけど、任せてみたら本当に一日も、ってか、九時から始めて夕方には完成しちゃったよ。マジだった!
「凄いわね。ジーヌ公爵領の船大工。驚異的すぎるわ」
「このくらいどうってことはありませんよ」
本当にどうってことはなさそうな顔をしている。マジで凄いわ。
「ラン。お酒を」
一升瓶をランから受け取り、桟橋へ向かう。
コルディーにない文化だけど、他所様の領地なので建前みたいなことをしておきましょう。
清酒を三度、桟橋に滴し、残りは湖に流す。
グリムワールを出したら胸の前で掲げて一礼。しばらく湖で遊ばせていただきます。
三宝(供物台)を出して果物類を乗せて、両脇にジーヌ家の旗を掲げさせてもらった。
「ラン。お願い」
「畏まりました。皆様方。これは、チェレミー様からです」
おひねり(銅貨五枚)を船大工たちに渡してもらった。よかった。たくさん用意してて。人数分だったら恥をかいてたわ。
 




