960 クレヌー湖 下
ハイ、残念ながら日本語ってことはありませんでした~。
「なんの文字なのかしら?」
そもそも文字か? 数字みたいに見えるわ。
「学者は読めるようになったのですか?」
「いえ、まったく。ただ、この文字は石碑の番号ではないかと言ってましたね」
「やっぱり番号なんですね。○○の○○○か」
よく電柱に貼られている住所みたいね。町だったのかしら?
「まあ、いずれわかればこの湖は観光地になるかもしれませんね。大きな生き物は住んでませんよね?」
竜か龍が住んでいても不思議な世界じゃない。酒カスや菓子カスが跋扈している世界なんですものね。
「魚はたくさん住んでいるようですけど、大きな生き物はいませんね」
「平和な湖でなによりです」
それなら船を浮かべても問題なさそうね。あ、湖水浴もいいわね。転生しても泳ぎって覚えているものかしら?
「いつまで見ているのよ?」
ロリっ娘にはいつもの光景。湖に感動することはないんでしょうね。
「飽きるまでよ」
まあ、立っているのも疲れるので、アイテムボックスワールドから椅子やテーブル、パラソルを出して設置した。
付与魔法で風で飛んで行かないようにする。あと、トイレも設置しておきましょう。ここをリゾート地とする。
「本当に綺麗な湖です」
なんだかブルジョワ──あ、わたし貴族だったわ。大自然の前では貴族でも矮小な存在に思えてしまうわね。フフ。
「ハリーヌ様。ここをしばらく借りてもよろしいですかね?」
「はい。問題ないかと。漁港から離れていますので」
「漁港なんてあるのですね」
「はい。魚は豊富なので。燻製にして王都に運ばれておりますよ」
それは興味深いわね。燻製ならお酒に合いそうだ。お土産に買って行きましょうかね。
「炊事場を作ってもよろしいですか? 野外料理をしたいので」
こういうところに来たらやはりキャンプ飯でしょう。ダッチオーブンで肉を焼いて食べたいわ。炊事場ではピザを焼く。まさに夏って感じだわ。
「はい、大丈夫ですよ。すぐに人を手配しますね」
「よろしいのですか?」
「遠慮しないでください。ミシエリル様からチェレミー様の要望は可能な限り応えるように命じられておりますから」
至れり尽くせりね。わたし、それだけのことしたかしら? いや、したんでしょうね。わたしの価値、どれほどのものよ?
「そうですか? では、甘えさせていただきますわ」
なにで返せるかわからないけど、今は楽しむことに集中しましょう。長いこと夢に見ていたバカンスなんだからね。
さあ、楽しむわよ!




