945 媚でも売っておく 上
野営は何事もなく過ぎ、平和な朝を迎えた。
朝食は昨日のうちに作っておいたので、順番に食べて出発準備を整えた。
「出し入れも面倒よね」
出すのも入れるのにも魔力は消費する。まったくもったいないわね。
「公共トイレって造れないかしら?」
そう言えば、コルディーに公共事業とかあるのかしら? それぞれの領地でやれ、なのかしら? 街道はどこの担当? そう言ったこと、考えもしなかったわ。
「まずはカルディムでやってみましょうか」
館周辺には公共トイレは造ってある。垂れ流しされたら堪ったもんじゃないからね。
「チェレミー嬢。出発しよう」
「わかりました。シューティングスター。よろしくね」
夜の間、情事に出ていたようで、目がバキバキだ。お前ほんと、ハーレム主人公みたいな野郎だよ。羨ましくないけど。
さすがのわたしも馬のおっぱいは愛でられない。わたしは人のおっぱいしか愛せないのよ。
出発して三時間くらいして宿場町が見えて来た。
それほど大きくはなく、十軒くらいの建物が密集しており、二十軒くらいがバラけている。広場も広く、ジーヌ公爵領との物流がどれほどのものかわかるってものだわ。
「いいメスがいるな」
「少しは自重しなさい」
おまゆうとかは言わないでくださいませ。
街道なのでいろんな人たちの往来を見てきたでしょうけど、さすがに騎士団が移動しているのは珍しく、たくさんの人たちが道の両脇に出て眺めていた。
「やっぱり一角獣は目立つわね」
コルディーにいるものではない。角を生やす馬がいたら見ちゃうわよね。
「それはロンシャもだろう。女が騎士団に混ざっておれに跨がる。何事だろうと思うだろうよ」
「随分と人の世に慣れてきたわね。そんなことまで理解するなんて」
「たまにタルルと世間話をするからな」
菓子カスと世間話? なにを話すのよ? てか、話、通じるんかい。聖獣同士、なんか通じんのか?
「手でも振ってやったらどうだ?」
それもそうね。ここはジーヌ公爵領なんだから媚でも売っておきますか。
グリムワールを抜いて梅の花びらを撒いた。
コノメノウ様が魔王様のところから梅の花びらも集めてくれたからたくさんあるのよね。ほーら、サービスよ~。
子供たちが騒ぎ出し、喜びながら追いかけて来た。なんかサーカス団がやって来たみたいなノリね。
メインストリートはそこまであるわけではないので、すぐに通りすぎ、子供たちも宿場町から出るつもりはないようだ。
「こういうのも楽しいものね」
旅は長いほど風景に飽きてしまう。地元の人たちとのちょっとの触れ合いでも楽しいものだわ。




