943 騎士は清潔に 上
進みは順調だ。こうしてのんびり景色を眺めながらの移動もいいものね。
王都を出ると一気に景色が変わる。緑が多くなった。
それでも王都周辺なので、まばらながら家が視界から消えることはなく、森もない。牧草地や畑が広がっていた。
この道は街道なのか、幅もありよく固められている。さすがにスピードを出して馬車は走らせないけど、ゆっくりなら問題ない道ではあった。
「チェレミー嬢。休憩しよう」
一定の間隔で馬を休ませる広場があるのは王都周辺の特徴かしら? ここは小川があるので馬が喉を渇かせるってことはなさそうだわ。
「こうして旅をすると王都周辺はよく発展していることがよくわかりますね。田舎では川を探して野宿しますし」
「相変わらずチェレミー嬢は普通の令嬢とは違いますな。見ているところが軍参謀のようだ」
「自分が普通ではないのは自覚しておりますわ」
てか、普通の令嬢はどんな気持ちで移動するのかしらね? 禅でも組んでいるのかしら? わたしはいろいろ考えないと暇で仕方がないわ。
「今日は野宿になりそうですか?」
もう午後の三時は過ぎているでしょう。さすがにジーヌ公爵領まで半分以上はあるはずだわ。
「もう少し先に進めば宿場町はありますが、今日はここで休んでもよろしいかもしれませんな。朝に出発すれば昼過ぎには領都に到着するでしょう」
そうなんだ。宿場町がどんなかは気になるけど、馬車よりは不便でしょうし、ここで構わないわね。
「ナディア。夕食の準備をお願い。ランは手伝ってあげて」
小川はそこまで勢いのあるものではなかったけど、少しずつなら問題はないわね。
特級以上の魔力を得た今、わたしに不可能はない。
アイテムボックスワールドの容量も増え、ちょっとの小屋なら出し入れできるようになった。
トイレの小屋とお風呂の小屋。それぞれ二つずつ出した。
「うーん。特級以上でもかなり魔力を持っていかれたわね」
ガラスの珠の魔力が六割は持っていかれた。明日の朝にはなんとか溜められそうね。
これはもっとガラスの珠を作って溜めておくのがいいかもしれない。ほんと、魔力はいくらあっても足りないわ。
「ラインフォード様。これを使ってくださいませ」
「……益々とんでもない魔力を増やしましたな……」
「ここに入れている魔力容器のお陰です」
ガラスの珠を叩いてみせた。
「そ、そうですか。凄い魔道具ですな」
なぜか視線をズラすラインフォード様。なんや?
「自由にお使いください。出発前に片付けますので」
わたしたちには馬車があるので騎士団専用だ。臭い騎士なんて幻滅だからね。
 




