926 友情 下
禁断の夜食はたくさんあるけど、今回はフライドポテトを用意した。
芋? と皆様方の顔が不思議そうにしている。
「チェレミー様が作るフライドポテトはとても美味しくて、ソースをつけると何個でも食べられてしまうのです。もう食べすぎて侍女に怒られてしまいました」
そう言えばそんなこともあったと報告されたっけ。微笑ましいと軽く流したものだわ。
「飲み物は……レモンスカッシュにしましょうか」
とりあえずレモンスカッシュを容れた壺を出して、グラスに注いで皆様方に配った。
「酸っぱくて甘くて、ピリピリしますね」
「これがフライドポテトによく合うんですよ」
久しぶりに食べられると、満面の笑みを見せるルーセル様。案外、食いしん坊さん?
「今日は大人もいなければ小うるさい侍女もおりません」
レイフ様は空気です。いてもいない扱いになっております。
「ここにいるのはわたしたちだけ。お風呂上がりに皆様方とおしゃべりしたと報告すればよろしいでしょう。ウソは言ってないのですからね」
お泊まり会のことは報告されるでしょう。でも、なにを食べたかまで報告することはない。おしゃべりするにはお茶とお菓子は出されるもの。妃候補者たちの後ろにいる者たちが知りたいのはなにをしゃべったかだ。
おしゃべりしているときに出されたものなど気にしないわ。仮に気にしたとして、芋を油で揚げたものと報告したらいい。最高位貴族に芋のよさなどわからないのだからね。
「ウソを言う必要はありません。ただ、真実を言わなければいいだけ。ちょっとした処世術ですよ」
教育でウソはつけないでしょう。なら、真実を言わなければいい。沈黙することも教育されているでしょうからね。
皆様方から向けられる眼差し。そこには驚きはない。わたしの読みを証明してくれる眼差しであった。
「いつも真実が受け入れられるわけではありません。ウソも方便。求めている答えは見抜いて、欲しい真実を与えてあげればよろしい。そこにちょっとした香辛料を混ぜて、ね」
ここにいる方々はそのくらいできないといけない地位にいる。妃となれば笑顔でウソをつかなければならない場面もある。一朝一夕で身につくものでもない。今から学んでおかないとね。
「これはわたしたちだけの秘密です♥️」
フライドポテトを取り、マスタードにつけて口に放り込んだ。うん、美味しい♥️
共通の秘密は連帯感を生む。蹴落とすより仲良くなるほうが断然いいわ。
「さあ、皆様方。フライドポテトは熱々が命。いただきましょう」
ルーセル様も理解したようで、フライドポテトをつかんでケチャップソースにつけ、口の中に放り込んだ。
皆様方が視線をぶつけ合い、一つに纏まったようで、一斉にフライドポテトに手を伸ばした。
 




