903 しゃしゃり出ない 上
必要な魔力は集められた。
「お二方の献身は忘れません」
「あたかも死んだような言いかたするな。そして、もっと菓子を寄越せ。果物パン、もうないぞ」
引き出しを見たら供給されなくなっていた。どんだけ食ってんだよ。
「有限なんですから少しは控えてくださいよ」
「そのセリフそのまま返すわ! わたしらを殺す気か!」
「生きているんだからいいじゃないですか」
殺したら魔力をいただけないじゃないですか。ちゃんと弁えてますって。安心してくださいませ。
「悪魔め!」
引き出しを戻し、また引き出すと、ラムレーズンサンドが補給されていた。
紅茶を出してちょっと一息。あーラムレーズンサンドが美味しいわ~。
「えーと。悪魔がなんでしたっけ?」
なにかおっしゃいましたか? 最近、疲れて耳が遠くなったかしら? 嫌だわ~。まだ十代っていうのにさ。
「悪魔め!」
引き出しに詰まるラムレーズンサンドをバクバク食べる堕ちた守護聖獣様。こうはなりたくないものだわ。
「──お嬢様。ルーセル様が帰って参りました」
ラムレーズンサンドを食べていたらラグラナが部屋に入って来た。
「少し休んだら部屋に伺わせてもらうと伝えておいて」
「畏まりました」
「どこかに出かけていたんだ?」
「いろんな方々との交流ですよ。ゴズメ王国としてはコルディーとよい関係を結ばねばなりません。それにはゴズメ王国になにがあるかを知ってもらわねばなりません。お妃様を介してのお茶会が王城のあちこちで行われているのですよ」
「お前がついてなくてよいのか?」
「失敗もまた勉強です。大事になる前にわたしが片付けておきますよ」
今のところ失敗はしてないけど、まだ未熟なルーセル様。どこかで失敗はするでしょう。それはそれで誰が騙したかもわかる。コルディーに邪魔な者を炙り出してくれるんだから問題ないわ。
「……恐ろしいヤツだよ……」
「国内同士でも仲良しこよしなんてできませんからね。炙り出せる脅威は炙り出しておくに限ります。まあ、そう簡単に炙り出せる脅威なら苦労はしませんけどね」
真の脅威は静かに進行する。わざわざ罠にかかりに来たりしないわ。そういうヤツって知恵だけは回るからね。
「うちの姫をあまりいいように使うでない」
「ちゃんと利益も与えているのですからよいではないですか。心配ならついててあげてくださいよ」
わたしの外付け魔力タンクとしているわけじゃないでしょう。いや、それならそれで構いませんけど。
「お前が動いているのにわたしがしゃしゃり出ることはできんだろう。お前の考えは誰にも予想できんのだからな」
まあ、確かに守護聖獣がしゃしゃり出たら大変なことになる。未だ動きを見せない神殿も同じ考えなんでしょうよ。




