879 魔王いるんかい 上
屋敷の倉庫に清酒樽を出せるだけ出してから王城に戻った。
すぐにミシエリル様に了承の手紙と、ジーヌ家に届ける算段をしたので、そちらも受け取る算段を整える準備をお願いした。
「コノメノウ様。魔力をいただけますか?」
平然と入って来て、当たり前のように棚を漁る酒カス。多少なりとも配慮ってものを……求めるだけ無駄だったわね。菓子カスはテーブルでアイスを乗せたバームクーヘンを食べているし……。
「朝に渡したと思うが?」
「今は昼ですよ」
朝は朝。昼は昼よ。
「……いつの間にか二回に増えてないか……?」
そのうち夜は夜になるかもしれませんね。魔力はあって困らないものなので。
「ほら、くださいな。ほらほら」
「強盗か」
「ちゃんと対価は払っていますけど」
勝手に入って来ても容赦なく棚を漁っても文句を言葉にしたことは……あったかもしれないけど、止めたことは一回もない。こうして魔力を要求できるのだからね。
「わかったよ。ほどほどにな」
「わかりました。九割にしておきます」
仕方がないわね。わたしも鬼や悪魔ではない。お酒を飲む力は残しておきますね。
「……魔王も霞む容赦のなさだな……」
おっと。鬼でもなく悪魔でもなく魔王を飛び抜けちゃいましたか。
「ん? 魔王とかいるのですか?」
それは初耳。そんな魔力を持ってそうな存在がいるの? 是非とも会いたいわ。
「食い気味に来るのがそなたの恐ろしさだよな。魔力を奪う算段を考えておるだろう」
「魔力次第ですね。コノメノウ様の十倍もあるなら動いてもいいかもしれません」
そうでないのなら目の前にいるカスどもからいただいたほうが楽だわ。
「……いいところ三倍だな……」
「なんだ、三倍ですか。ショボいですね。魔王の名が──って、本当にいるんですか?」
その口振りから会ったことありますよね。
「いるぞ。自称から悪評まで。コルディーに手を出したヤツは排除したがな」
守護聖獣の名は伊達ではない、ってことか。確かに三倍なら妖狐が五人も集まれば倒せるか。
「三倍では魔王の名が泣きますね」
なんか興味を失ったわ。三倍くらいで魔王とか名のらないで欲しいものだわ。期待しちゃったじゃない。
「三倍でも単独で勝てる者はおらんぞ」
「別に単独で戦う必要ないではありませんか。数で押し切るなり罠に嵌めるなりやりようはあるでしょうに。正々堂々とかわたしの辞書には載ってはおりません」
もちろん、手段は選ぶわよ。死んだら魔力をいただけないからね。地下牢にでも放り込んで死ぬまで魔力をいただくとしましょう。
「そなたならエグい方法を使いそうだな」
「コルディーに攻めて来た時点で配慮してあげる必要はありませんからね。捕まえて永遠に罪の重さを教えてあげますよ」
侵略者に人権なし。敗者に生殺与奪の権なし。勝者の財産となるのよ。




