877 カスまっしぐら 上
「お嬢様。ジーヌ公爵夫人からお手紙です」
昼食が終わり、食後のお茶をしてお妃様とミシエリル様が帰った──と思ったら、ミシエリル様から手紙が届いた。早っ!
中身を見たら清酒が欲しいとのことだった。こんな手紙、いつ書く時間があったのかしら? 少なくとも十分くらいは必要でしょうに。
「清酒を屋敷に送って欲しいか」
よっぽど清酒を気に入ったようね。まあ、清酒は料理にも使えると悟ったのでしょうよ。あの料理の腕を持っているのならね。
「あー甘いものが食べたいな~。そうだ、バームクーヘンがあったわね」
あらやだ。バームクーヘンでは現れなくなったわ。菓子カスのクセに贅沢になっちゃって。まだまだ甘い菓子カスだこと。
「ラグラナ。たくさんあるから侍女たちに配ってあげなさい。生地にイチゴや紅茶を練り込んだものよ」
試しにとラグラナに出してあげ──ようとしたら菓子カスが滑り込むように現れてバームクーヘンにかぶりついた。
今さら威厳とか神聖とか出せとは言わない。求めてもいない。けど、せめて繕うことはやって欲しいものだ。やっていることが猫まっしぐらだわ……。
「タルル様。屋敷までお願いします」
「わたしを馬車扱いする──」
バームクーヘンの穴にクリームとイチゴを乗せたものを出した。
「任せろ! どこにでも送るぞ!」
その変わり身、尊敬に値しますよ。真似はしませんけど。
「ラグラナ。少し屋敷に行って来るわ。なにかあれば呼び鈴を鳴らしてちょうだい」
「……お気をつけて」
タルル様に屋敷へと転移してもらい、机の上に置いた呼び鈴を鳴らすと、すぐにルージュンがやってきた。
「お帰りなさいませ」
わたしが突然帰って来てもまったく驚かない。わたしがいて当たり前のような振る舞いだ。案外、肝が座っているじゃない。
「ジーヌ公爵夫人からの要請で清酒を用意してちょうだい。あと、ジーヌ公爵家と商売をしている商人を探して。屋敷に運んでもらうから」
わたしの名で手紙を書き、ゴズメ王国印を捺させてもらった。ちゃんとゴズメ王国の王妃様から許可はいただいておりますから。
「一応、荷馬車五台分は用意しててちょうだい。もしかすると増えるかもしれないから倉庫に出しておくわ。追いつかない場合は、わたしに許可をもらわないとできないと断りなさい。無理を言ってきたらお妃様に渡す分なのでと言って構わないわ」
ウソは言ってない。きっとお妃様も欲しいと言ってくるでしょうからね。
「畏まりました。こちらで進めておきます」
「ローエング公爵家にもわたしの名で贈っておいて。商人たちの後ろ盾となってもらいましょう」
ご隠居様もお酒(弾)は必要でしょうからね。




