732 魔法の大切さ 上
夜になり、ルゼット様たちが戻って来た。
「お疲れでしょう。まずはお風呂で汗を流してください」
お風呂のことはメイベルのメイドに任せる。てか、メイドに手を出さないわよね。男性もメイドが世話するのに。
「風呂か。ここでは当たり前のように入るのだな」
「はっきり言ってしまえば貴族は臭いのです。匂いで誤魔化すならまだしも何日も体を拭いたりしないし、食生活も悪い。体臭の酷さに何度も吐きそうになりましたわ」
なぜそこまで臭いに鈍感になれるか理解できないわ。ほんと、臭いったらありゃしなかったわ。
「魔法が使える者がいるのだからお湯くらい沸かしてください。そちらの侍女にグリムワールを渡しますので」
「チェレミー。グリムワールって作るの大変なの?」
メイベルが尋ねてきた。
「いえ、そうでもないわよ。持ち手の魔力を使うから一気に十本くらいは作れるわ。杖の形に拘るなら手間はかかるけどね」
普通の棒でよいのなら部屋の壺に差してある。たまにイライラしたとき折っているからね。折った棒は薪にしておりますのでご安心を。
「それ、いただける?」
「構わないけど、いくつ必要なの? 予備なら二十本はあったはず」
「じゃあ、二十本すべて欲しいわ」
「……なら、あとでメイベルの部屋に運ばせるわ。ただ、質素なものよ」
「構わないわ。侍女に持たせるから」
そんなにいたっけ、マルビオ家に? いたとしても身の回りをするのはメイドだ。汚れ仕事はしないでしょう。
「お父様。侍女のすべてに持たせてください。これ、便利なので」
「そうなのか?」
「侍女は、魔力はあるのに魔法を使える者が皆無です。学園で習うはずなのに」
まあ、日常生活を送るのに魔法は必要ない。魔力があることが優先されすぎて、学園を卒業したら魔法を勉強する人はいないと聞いたわ。
「ここで暮らしていると魔法の大切さを学ばされます。マルビオ家でも魔法を学ばせることを勧めます」
「そんなにか?」
「そんなにです。特に連れて来た侍女やメイドは魔法の恩恵を受けています。もっと早く魔法の大切さに気づくべきでした」
悔しそうな表情を見せるメイベル。そんなに魔法を必要としてたの? いや、わたしも魔法を惜しみなく使っているけどさ。
「お父様もしばらくここで過ごせばわかります。快適な暮らしがどんなものかを」
ただ、魔法に頼りすぎるのもいけないことだけどね。最終的には道具に頼る生活となるからさ。
「宿舎も快適にしてありますのでお確かめください。さあ、食事にしましょうか」
そういう話はマルビオ家でやってくださいな。




