731 侍従長 下
「……それでマルビオ家は狙われ、養子を取らせるわけですか」
「狙ったのとは違うわね。マルビオ家の立場を考えて提案を持ちかけただけよ。否と言われたらまた別の方法を考えていたわ」
マルビオ家は大きい領地だ。派閥も大きい。コルディーでも有数でしょう。でも、それだけに敵は多く、問題も多い。
「本来、ルゼット様は王都にいなければならない。なのに、当主自ら領地を守らなければならない。それはなぜ?」
「……なにもかもお見通し、と言うことですか……」
「予測しただけよ。鉱山はいずれ枯れるからね」
コルディーは歴史が長く、マルビオ家も長い。何百年と掘っていたらいずれは枯れる。ルゼット様が領地にいたのは新たな鉱山を探したり、枯れていた場合の次策を考えていたのでしょうよ。
「マルビオ家の極秘情報なのですがね」
「知識と状況を見ればわかることよ。まあ、マルビオ家は転換期に来ているってことね。次を見い出せなければ坂道を転がり落ちるだけよ」
転がり落ちたくないのなら麦の増産するなり畜産をやるなりすればいいわ。今の時代、食さえ確保していたら潰れることもないからね。ただ、マルビオ家の力はそれなりに落ちるでしょうけどね。
「コルディーはいい意味でも悪い意味でも広大すぎるのよ。広大な故に大体領地は海を持たないわ。他国と繋がることができない。コルディー内で需要と供給を回すしかない。そんなの限界があるのにね。ただ、食い潰すだけなのよ」
この世界、やたらと技術発展が遅い。まるで現状を維持させているかのように。コルディーが建国して数百年が過ぎているのよ。なのに、蒸気すら生まれない。それって異常じゃない? 転生する者もいるっていうのにだ。
……この世界が物語の中なら変わらないのも納得なんだけどね……。
「世界は停滞しているようで動いている。この世に不変なもはないわ。子が産まれ、成長し、大人になる。何百何千年と繰り返されているとは言え、変化は起こっているのよ。ルゼット様はその変化を肌で感じたのでしょうね。まったく、同年代で生まれて欲しかったわ。もっと楽に動けたでしょうに」
なんて嘆いても仕方がない。ルゼット様はまだ現役。あと四十年は働いてもらえるわ。
「あなたも後継者はしっかり育てておきなさい。そうでないと次の世代が苦労するわよ。新しい時代がやって来るのだからね」
「……新しい時代ですか……」
「そうよ。備えなさい。新たな時代になっても生き抜けるようにね」
さあ、改革の夜明けは近いぜよ。




