730 侍従長 上
「詳しい話は夜でも致しましょう。ルゼット様も考える時間や館を見て回りたいでしょうからね」
「そうだな。姉上から聞いてはいるが、どうにも想像ができなかった。自分の目で見させてもらおう」
ではと、呼び鈴を鳴らしてメイベルを呼んだ。
「メイベル。ルゼット様を案内してあげて」
よく町や建設場に出ている。わたしより状況を知っているようになったわ。
「わかったわ。お父様、どこから見たいとかありますか?」
「すべてを見たいが、なにか変わったな、お前。そんなだったか?」
「まあ、ここにいると令嬢としてより代表として振る舞わないといけませんからね。無意味に笑ってはいられませんわ」
町の裏方を仕切る者としては舐められてはいられない。自然と厳しくなるんでしょうよ。
……わたしはいつも笑っているのに、なんか恐れられているわ。なぜかしらね……?
「ロッカルもルゼット様について行きなさい。ルゼット様の見るもの、感じるものを学ぶといいわ。色事以外は参考にするべきことばかりだからね」
「褒められているのか貶されているのかわからんな」
「尊敬はしておりますよ。男ならもっと本能に生きろとカツを入れたいところですけど」
心がおっぱいマンなわたしとしては純愛している男がもどかしすぎるのよ。地位も金もあんだから本能を爆発させろよ、って思うわ。
だからって泣かせるようなゲスにはなってはダメよ。欲情だけではなく心も体も満たしてやるのが責任ってものだからね。
「……チェレミー嬢を理解できる者が近寄らないことを切に願うよ……」
わたしは理解できる者が近寄って来て欲しいものだわ。このおっぱい愛を語り合いたいもの。なんでわたしの周りって高潔な者しかいないのかしらね? 悲しいわ……。
「では、夜にまた」
わたしもやらねばならないことがある。それまで片付けておかないとね。
ルゼット様が出て行ったら連れて来た侍従や侍女たちと打ち合わせ。ローラやマクライに任せてもいいのだけれど、ここの主はわたし。失礼があってはならないので一緒に立ち会うとする。
ラルフ様の宿舎に向かい、侍女にはこちらが用意したものを見てもらい、足りないものや必要なものを聞いて用意させ、侍従たちに執務ができる環境かを見てもらった。
「ラビィング。まさかあなたまで連れて来るとは」
ルゼット様の侍従長、家令、代理当主を兼任し、王都の屋敷を任されている者でもある。
男爵の身分ではあるけど、マルビオ家では実質ナンバー2みたいな者だ。
「わたしもルゼット様が王都に現れたときは腰を抜かすかと思いました。とんでもないものを渡してくれました」
「その価値と危うさを理解できたから渡したまでよ。あれは使えるようで使えないものだからね」
転移羽根は便利だ。誰もが欲しがるでしょう。でも、それを知られたらどうなるか? まず排除対象となるでしょうし、使っている者は危険視される。無闇に使っていたらズルいと騒がれる。
「秘密にしようにもできるものではないからね。だから渡す相手は選ばなければならない。わたしの側に置かなくてはならない。すべての事象はわたしでなければならないわ」
わたし一人に向ければ対処しやすいからね。




