723 ソロバン 下
じゃあ、ソロバンを広めよう! とはなりません。だって覚えるのに時間がかかるじゃないの。そんな簡単に広められたら苦労はしないわ。
あ、モリエ。こっちに。ハイ、これがソロバンの使い方ですよ~。
「……そなたは他者に容赦がないよな……」
容赦しかしてませんけど。人聞きの悪いこと言わないでくださいよ。
「勘定担当の者を呼んでちょうだい」
二人いる勘定担当がやってきてソロバンの使い方を教えてあげた。
「じゃあ、あとはこれを使って計算をお願いね」
錬金の壺でソロバンを作って三人に渡した。使っているのを見れば商人たちにも勝手に広まるでしょうよ。
「なんだろうな。天能を効率よく使っているのか無駄に使っているのかわからんよな」
もちろん、効率よく使っているに決まっているじゃないですか。魔力は有限なんですから。
それを証明するかのように一時間もしないで商業連合会の面々が面会を申し込んできた。
別に断る理由もないので部屋に入れさせた。こっちは仕事の続きをさせてもらうけどね。
「お忙しい中、申し訳ありません」
「構わないわ。それでなにかしら?」
計算の途中なので顔を上げられないのは許してね。
「あの、玉のついたもののことで少しお話を聞かせていただけないかと」
「ソロバンのこと?」
「はい。あれは魔法の道具でしょうか?」
そんな風に見えたの? 魔法を使ったのは使っている者になんだけどね。
「普通の道具よ。帝国で使われていると聞いたわ」
幻聴だったらごめんなさい。わたし、たまに幻聴が聞こえるときがあるのよね。
「帝国ですか」
「あちらはいろいろ進んでいるみたいね。コルディーから帝国に行った者は少ないのに帝国からコルディーに来る者は多いでしょう。それは航海術が優れており計算ができているからよ」
GPSもない時代。星の位置や羅針盤と言ったもので方角を知るしかない。船の性能だってそう。そこには必ず計算が必要となるわ。
……わたしと同じ転生者がいたらさらに技術は発展しているでしょうね……。
「コルディーより百年か二百年先を行っているのが帝国よ。教育を受けた者もコルディーより多いでしょうね」
それで覇権国になっていないのはコネメノヒメが帝国を裏で牛耳っているからでしょうね。脳筋ってタイプではないし、暴力に興じる性格でもなさそうだからね。
「ソロバンは自由に作って自由に広めたらいいわ。わたしも計算ができる者が増えてくれると助かるからね。あ、また計算間違いしている」
二重チェックができてないのかしら? 困ったものだわ。
「ソロバンに興味がある者はいる?」
即座に二人が手を挙げた。
引き出しからソロバンを二つ出して二人に渡した。
「それには魔法がかけてあるわ。使い方がわかる魔法がね。あとはそちらでやってちょうだい」
わたしはそこまで構ってらんないのよ。呼び鈴を鳴らしてモリエを呼んだ。




