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72 最たる例

 食堂に現れたマゴットのおじさんは若かった。


 見た目的には四十半ば。茶色い髪の色も濃く、肌艶もいい。この年代で商会の当主なら威厳を持たせるために髭なんかを生やしそうなものだけど、まるで若さを売ってますとばかりにスタイリッシュだった。


 ……よほど自分の力に自信があるのね……。


 顔もいいし、きっと女性にはモテるでしょうね。わたしもこんな男性に生まれておっぱいハーレムを築きたかったわ。


「お初にお目にかかります。ロンド・バーニアと申します。この度は姪がお世話になりました」


「助けられているのはこちらよ。堅苦しい挨拶は不要よ。わたしは隠遁者。失礼にならないていどでいいわよ。わたしも自分の館で権謀術数なんて面倒だもの」


「それでは館の外ではしていると言っているようなものですよ」


「ふふ。言うじゃない。そう受け取ってくれて構わないわ」


 なかなかウィットに富んだ男じゃない。これは有力な商人がきたものね。マゴットの一族、おもしろいわ。


 レアナとマーグ兄様を紹介したら夕食にする。


「素晴らしい料理ですな」


「こんなところでは食べることしか楽しみがないからね」


「いや、ここは食事以外にも楽しみはあるだろう。なんだい、川向こうのアレは? スケートなんて帝国の遊びを再現するなんてさ」


 あ、やっぱり帝国の転生者はスケートも広めていたか。自重しねーな。


「帝国と商業条約を結んでないんだもの。真似をしたって文句は言われないわ」


 特許なんてものがあるわけじゃない。真似た者勝ち。そんな時代なのよ。よくも悪くもね。 


「真似したいのなら好きにして構わないわよ。わたしが考えたわけじゃないんだしね」


「真似れるのはチェレミー様くらいだよ。貴族でもないのに氷なんて張れないよ」


「帝国は技術で氷を作っているのよ。つまりそれは、魔法を使わなくてもできると言うこと。商売にしたいのなら試行錯誤しなさい。どうしても、って言うなら凍らせる杖を売ってあげるわよ」


「アハハ。商売上手なお嬢様だ。是非、バーニア商会に売ってください」


「一本金貨五枚でいいのなら売ってあげるわ。使い方は自由だけど、夏に使うといいわよ。夏に氷が手に入るなんて喜ばれるでしょうからね」


 冬なら勝手に凍ってくれるんだから夏に氷を作るほうが賢いでしょうよ。


「……権謀術数はしないのでは……?」


「してないじゃない。ただ、買うか買わないかの話よ」


 わたしはなにもしていない。伸るか反るかはそちら次第だわ。


「手強いお方だ」


 フフとだけ笑っておく。意味深に笑っておけば勝手に解釈してくれるからね。


「これは、米酒ですか?」


 口を潤すために口にしたスパークリング清酒を飲んで驚くロンド。清酒を飲んだことあるってこと。やはり清酒も造られているのね。


 ……かなり身分のある立場に生まれたのかと思ったけど、なにかチートを持っている可能性があるわね……。


 こんなにたくさん広めるには身分だけでは無理だ。この時代で元の世界のものを再現できるなんてチートがないと不可能でしょうよ。


「ええ。わたしは付与魔法が得意だからね。元がわかり、材料があるなら再現は可能なのよ」


 付与魔法も使いよう。何事も発想力がある者が勝つものなのよ。


「マゴット。そろそろ米が切れそうなの。また仕入れてきてくれるかしら?」


 思いの外コノメノウ様が飲んでしまうので在庫が切れそうなのよね。麦はあるからウイスキーでも作りましょうかね?


「馬車四台分持ってきたよ。次も四台は持ってこれるから安心してくれ」


「それは助かるわ。需要が増えて困ってたのよ。でも、よく仕入れられたわね。帝国の船は冬でもきているの?」


 冬の海って荒れるものじゃないの? わたし、海なし県の生まれで、海と言ったら日本海しかいったことないのよね。どこかは想像に任せるわ。


「去年まではこなかったが、今年はよくきてるよ。豆が足りないってね」


 あ、そんな話もあったわね。王宮やコノメノウ様のことがあってすっかり忘れていたわ。


「そう。帝国も大変ね」


「他人事だな」


「しがない伯爵の娘に国家間の争いなんて他人事よ。まあ、せっかくなので儲けさせてもらうけどね」


 悪どいことはしないわよ。ちょっとだけ儲けさせてもらうだけ。食糧難になったら困るからね。


「米はいくらあっても困らないわ。買えるだけ買ってきてちょうだい。マゴットが儲けられる値段で買ってあげるから」 


 米はまだ安い。輸送代だけでは儲けはないでしょうが、これからも持ってきてくれないと困るのだから損しないだけのお金は出すわ。


「あ、ブランデーも買っておいて。叔父様が気に入ったみたいで頼まれているのよ」


 自分で飲むけど、贈答用にしたいそうなのよ。領地持ち貴族もご近所付き合いって大切だからね。


「もちろん、買ってきたよ。二十樽買っておじさんのところにも置かしてもらっている。必要ならいつでも言ってくれ。すぐに運ばせるよ」


「二十樽とは買ったものね」


 と言うかよく運んできたわね。わたし以外に買っている人でもいるのかしら?


「本当はもっと買いたかったんだがな、倉庫のほとんどを麦で詰め込んだから置く場所がないんだよ。今回の二十樽も入れるところがないから運んできたくらいだ」


「貸し倉庫は大儲けね」


「そうだな。わたしらの動きを察した商人が先手として借りているよ」


「どこにでも察しのいい人はいるものね」


「その最もたる例はチェレミー様だがな」


「そうだったら先に動いているわよ」


 先立つものがなかったしね。わたしなんて凡人に毛が生えたようなものだわ。

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