63 二人だけの秘密よ
「……どの世界、どの時代でも女性と言う生き物は美を求めるものなのね……」
同じ形をしていたなら同じ進化を辿っても不思議ではない。けど、それに巻き込まれるのは勘弁して欲しいものよね。
お妃様から派閥の奥様にシェイプアップアイテムが広まったのでしょう。欲しいとの手紙がやってきた。
「わたしの個人情報ダダ漏れね」
まあ、貴族社会にプライベートなんてない。秘密は簡単に漏れるもの。まさに人の口に戸は立てられぬよ。
「仕方がないわね。お妃様からの紹介となれば」
なんて、こうなることは予想してました。こうなることを望んで口止めしなかったのよ。
基本、女性は口は軽い生き物だが、守るべきことには岩より口が堅くなる生き物でもある。
必死に努力して痩せました~! とか、口が裂けても言わないわ。特別なことはしてませんわ~と言うのよ。
他より美しく。他が美しいなど許せない。すべての女性が、とは言わないけど、一定数以上はいるのは確か。特に高位貴族ともなれば見た目至上主義と言ってもいいくらい。美しくなるならお金に糸目はつけないわ。
その証拠がこの手紙。王宮を通して送ってきたんだからね。
とは言え、二十四人か。お妃様の派閥って、わたしが思う以上に大きいのね。まさかバーミング公爵夫人からもきてたわ。
わたしもウワサていどにしか知らないけど、代々バーミング公爵家は大臣を輩出しているそうで、現公爵は内務大臣だったはずよ。
「この手紙から王城の派閥図が見えてくるわね」
「普通は見えたりしないものです」
と、声がして顔を上げたら呆れ顔のラグラナがいた。ほんと、音を立てて近寄ってきて欲しいものだわ。
「レアナは?」
「食堂におります」
「じゃあ、わたしもいかないとならないわね」
お父様からの手紙はあとでいいわ。どうせ指輪が足りないってことでしょうからね。
「お嬢様。顔を」
濡れタオルで顔を拭くラグラナ。脂ぎってたかしら?
「そろそろ化粧をなさっては如何ですか?」
「火傷が目立たなくなるからいらないわ」
人の恨みを買ったせいで火傷を負った女の成れの果て、って設定をなくしたらさらに厄介事がやってきちゃうわ。
貴族社会にはそんな感じで広まっているはずだし、調べにきた者に罪を償っているアピールしなくちゃならないもの。
一番注意しないとならないのが中位貴族だ。この中途半端にいる貴族は中途半端なことしかしないから厄介なのよね。
これが高位貴族なら軽はずみなことはしない。付かず離れずわたしを利用することを考える。
だけど、中途半端な貴族はわたしを引き込もうとして見合い話を持ってくる。男を賄えば喜ぶだろうと勘違いを起こす。顔を隠せば問題ないとかクソみたいなことを言うアホがいる。
この世でもっとも警戒すべきはそんなDQNどもなのだ。
こちらの作戦などあっさり破り、斜め下のことをやってくる。貴族のクセに貴族の常識を無視してくるから始末に負えないのだ。
そんなアホを潰すには上位貴族を味方につけるのが一番だ。ああ言うDQNは自分より上の者に弱い。DQNのクセに自分の弱さをよく知っているのだ。
上位貴族は厄介だけど、DQNを相手にするよりは易しいものだ。ちゃんと利益と名誉を天秤にかけて動いてくれるんだからね。
「もう消してもよろしいのでは? お嬢様なら簡単に消せますよね」
「あら、わかっていたの?」
「お嬢様の非常識な魔法を見ていればわからないほうがどうかしてますよ」
いつの間にかアマリアがいないので、火傷をペロッと剥がしてみせた。
「…………」
口をあんぐりと開けて驚いている。
「ふふ。お返しよ。わたしもびっくりしたんだから」
まさか六十過ぎのおばあちゃんが三十代の美女になってわたしの前に現れたんだからね。
「これは二人だけの秘密よ」
もともと火傷なんてしてはない。さすがに操を守るために火に焼かれたりしないわよ。サイコパスもいいとろこでしょうが。
人とは目立つものを記憶に残す。火傷=わたしとなればイザってときに認識を妨害してくる。逃げ出すのも簡単でしょうよ。
「……あなたと言う人は……」
「わたしはわたしよ。昔も今も。そして、これからもね」
いや、前世からわたしはわたしのままだったわね。口調は変わっちゃったけど。
火傷を元に戻して席を立つ。
「ゆっくりしたいからここにきたのに、忙しいことばかりね」
「王都の屋敷にいるときより晴れやかな顔をしてますよ」
苦笑してみせたのに、ラグラナには晴れやかに見えるようだ。
「そうね。少なくともわたしらしく生きていられるわ」
おっぱいに囲まれた生活があり、強要された毎日でもない。多少の義務はあるけど、それは許容内。素晴らしい毎日を送れているわ。
ラグラナに髪を直してもらい、部屋を出る。
食堂に向かうと、レアナやマーグ兄様が席に着いていた。
……食事の席に誰かいるっていいものね……。
いつもは一人で食べる食堂も誰かいてくれるだけで輝いて見えるから不思議よね。
「お待たせしました。ここはうるさい者もいないから好きに食べてくださいね」
さすがに手づかみをされたら注意しちゃうけど、好きなものから好きなだけ食べたらいいわ。
「凄い料理だな。チェレミーはいつも食べているのか?」
「ええ。せっかくなら美味しいものを食べたいですからね。さあ、冷めないうちにどうぞ」
お祈りもいただきますもない。席に着いたら食事開始。あー今日もガイルとレイドーラが作ってくれた料理は美味しいわ~。




