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62 おでこにチュー

 城には一泊を予定していた。それは伝えていたのだけれど、レアナの感情には伝わってなかったようだ。


「お姉様帰っちゃ嫌だぁ~!」


 と泣かれて大困り。わたし、そんなに懐かれるようなことをしたかしら?


 まあ、わたしも前世でやったことあるからレアナを責める資格はない。よしよしと宥めるしかなかった。


 叔母様も宥めるけど、まったく効果はナッシング。このままスタミナ切れを狙うか? と考えていたらマーグ兄様が口を開いた。


「チェレミー。ぼくたちを君の館に招待してくれないか? レアナもチェレミーの館にいってみたいだろう?」


「いきたい!」


 マーグ兄様の提案に即座に乗るレアナ。女の子とは恐ろしいものである……。


「これと言って楽しいものはありませんよ。静かに暮らしているだけなんですから」


「レアナはチェレミーがいたらそれで嬉しいのさ。ぼくはジェドを相手してもらいたいけど」


「まあ、叔父様と叔母様の許しがあればわたしは構いませんよ」


 わたしの独断では決められない。領主代理の娘とは言え、大事なカルディム家の娘。わたしが抜けた穴を補ってもらう人材なのだ。


「旦那様に訊いてきます」


 叔母様は容認。しばらくして叔父様の許しをもらって戻ってきた。


「あっさりですね」


「他のところなら断固反対ですが、あなたの館なら問題はありません。警備もしっかりしているでしょうからね」


 わたし、信頼されすぎ問題。もっと疑いましょうよ。


「メイドを一人つけてください。服は最低限で構いません。こちらで用意しますので。マーグ兄様も最低限でよろしいですよ。男性を招待するときの練習としますから」


 いずれ誰かが訪ねてくるとは考えていたけど、まだ先だと思っていた。でも、せっかく機会がやってきたのだから男性のもてなし方を試してみましょうか。


「ああ、すぐに用意するよ」


「お母様、わたしも用意してくださいませ!」


「ゆっくりで構わないわよ」


 そう急ぐ予定もない。お昼に出ても明るいうちには帰れるはずだわ。


 ちなみに孤児の二人は先に向かわせました。兵士たちにお願いしてね。


「母様、ぼくもいきたいです」


 あ、ナジェスもいたわね。静かにしてたから忘れてたわ。


「あなたはダメよ。勉強があるんですから」


 ナジェスもわかっていたようで、シュンと落ち込んでしまった。


 まあ、ナジェスは跡取りであり、第二継承者。お兄様になにかあったときの代え。未成年の間はそう簡単に外に出すことはできないのよ。


「ナジェス。そのうち叔父様を招待するからそのときにいらっしゃい。そのときはあなたに騎乗服を贈らせてもらうわ」


 貴族の男に馬術は必須。五歳の頃から馬に跨がっており、十歳ながら一人で馬を操っているわ。


「騎乗服ですか?」


「ええ。この世に一つしかないあなただけの服を贈るわ」


 落馬したときの防御力強化と衝撃吸収。魔力増加……はまだいらないわね。まあ、死なないように施したものをプレゼントしてあげましょう。


「約束ですよ! 絶対ですからね!」


「ええ、約束よ」

 

 ナジェスのおでこにキスをする。


 この世界に指切りはないけど、親が子に約束を交わすものはある。それがおでこにチューなのだ。


「体を大切に元気にしてなさい」


 頭を撫でてやり、部屋を出た。わたしも騎乗服に着替えなきゃならないしね。


 レアナとマーグ兄様の用意ができたら出発。いきと同様帰りも順調で、夕方には館に到着できた。


「ローラ。急で悪いけど、マーグ兄様の部屋を用意してちょうだい。レアナはわたしの部屋に泊まらせるから」


 一応、客室は三部屋用意してある。その一つをマーグ兄様に使ってもらいましょう。


「畏まりました」


「マーグ兄様。なにかあればローラにお願いしますね」


 王都の屋敷にいたローラはマーグ兄様と面識はある。知らないメイドよりは話しやすいでしょうよ。


「ラグラナ。レアナをお風呂に入れてちょうだい。部屋着はわたしのを合わせて構わないわ」


「畏まりました。レアナ様。こちらに」


「コノメノウ様。夕食は如何なさいますか?」


 すっかり存在を忘れていたコノメノウ様。ちゃんと馬車に乗っててよかったわ。


「眠いからいらん。だが、起きたら食うから用意はしててくれ」


 朝まで飲んでいたから寝不足のようで、大きなあくびをしていた。


「わかりました。マーナ。コノメノウ様をお願いね」


 マーナに任せたらわたしは部屋に向かってワンピースに着替える。


「マクライとモリエを呼んで」


 アマリアにお願いし、椅子に座って紅茶を一杯。ふー。やはり自分の部屋が一番だわ。


 しばらくしてマクライとモリエがやってきた。


「突然のことばかりでごめんなさいね。しばらくレアナとマーグ兄様を預かるからよろしくお願いね。あと、お父様に手紙を書くから急いで届けてちょうだい」


 マーグ兄様のことは伝えておくべきでしょう。拗れても困るからね。


「わたしの留守中なにかあった?」


「王宮より手紙が届いております」


 ハァー。また要求か。今日中に読んでおかないといけないわね。


「モリエ。孤児の様子は?」


「落ち着いております。今はラティアに館の決まりなどを教えております」


「悪いわね。面倒をかけて」


「お嬢様を支えるのが我らの役目。お気になさらず」


 そう言ってもらえて嬉しいわ。


「夕食まで手紙を読むわ。夕食はちょっとだけ遅らせてちょうだい」


 面倒なことは片付けてから二人の相手をするとしましょう。


「あまり根を詰めないでくださいませ」


「ええ。大丈夫よ。ありがとう」


 わたしは嫌なことはさっさと片付けたいタイプ。机に積まれた手紙に手をつけた。

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