61 完成された人
よく河原でケンカして友情が芽生えるって話があったけど、アレってウソじゃないのね。一時間、みっちり男の子たちと勝負したら打ち解けてくれたわ。
「チェレミー様、またきてね!」
「約束だよ!」
帰る時間となり、馬車に乗り込もうとしたら男の子たちが集まって涙を流しながら別れを惜しんでくれた。
女の子が若干引いているのが印象的だったけど、まあ、孤児院訪問は大成功。次へと繋げられたのだからオッケーよ。
「……体が痛いわ……」
若いからかすぐに筋肉痛が襲ってきた。次は体力強化を付与させた指輪をしてからやらないと。いや、鍛えたほうがいいわね。逃げるのも体力が必要なんだしね。
「自業自得です。淑女たる身で土まみれになるなんて。お義姉様が聞いたら卒倒しますよ」
「そうならないために黙っててくださいね」
これ以上、お母様に心労を与えたくないので。
城に着いたら部屋に直行。お風呂の用意をした。
お湯球に入りながらマーナに体を洗ってもらいさっぱりする。あー癒されるぅ~。
この世界風に合わせた作務衣に着替え、ベッドにうつ伏せになってマーナにマッサージしてもらった。効くぅ~。
疲れと気持ちよさにいつの間にか眠ってしまい、気がついたら夜中になっていた。
「……がっつり眠っちゃったわね……」
ベッドから起き上がり、灯りを点けた。
「お腹空いたわね」
昼から食べてないんだから減りもするか。
誰か呼ぶのも悪いし、持ってきた料理で夜食っちゃいましょう。
魔法の鞄からミートパイ、野菜シチュー、リンゴジュースを出した。
「夜中に食べる料理って、どうしてこんなに背徳感が湧いてくるんでしょうね? いただきます」
うん。時間停止の鞄だからできたてホヤホヤ。ミートパイも野菜シチューも美味しいわ~。
「──美味そうなものを食っておるな」
うおっ! びっくりしたー!
「……コ、コノメノウ様、いつの間に……?」
入ってきた様子はなかった。テレポートでもしたんですか?!
「隣の部屋に入るくらい造作もないわ。これだけか?」
十日分は入っているので、コノメノウ様が好きな羊の肉料理を出した。
「これはワインだな」
ハイハイ。用意しておりますよ。
「そなたは用意がよいの」
「お腹が空いたらメイドに言ってください。すぐに用意させますので」
「そなただってメイドを呼ばずコソコソ食っているではないか」
「わたしは、メイドに負担かけないようにしているだけですよ」
館でもどきどきやってるし。
「わしもだ」
まったく、長く生きた方は口が上手くて嫌になるわ。
いつもはあまり食べないクセに今日はやたらと食べるコノメノウ様。夜食は守護聖獣ですら魅了するのかしら? まぁ、わたしもいっぱい食べちゃってるんですけどね。
「ふー。食った食った。こんなに食ったのは久しぶりだよ」
「城では食べられなかったのですか?」
守護聖獣なら満漢全席、と言わないまでも豊かな食卓だったはず。質素なわけないわ。
「窮屈な場所では食欲も湧かんわ」
かなり鬱屈した暮らしだったようね。わたしも王都の屋敷ではあまり食べなかったわね~。
「そんなところによくいますね」
わたしならさっさと逃げ出す算段をして一年以内には飛び出しているわ。
「そなたはズバッと言うな」
「当たり障りのない言葉のほうがよかったですか?」
守護聖獣様相手にズケズケ言う人がいたら見てみたいけどね。
「いや、無味無臭の言葉など雑音でしかない。耳障りなだけだ」
「わかりました。無味無臭な言葉を吐かないよう注意致します」
「含みばかりでも困るがな」
「素直な気持ちを言葉に致します」
伊達に何百年と生きている方ではない。こちらの思惑など見抜いているでしょうよ。
お腹が膨れたのでわたしもワインを飲むことにした。
「夜に飲むワインもいいものですね」
「まだ若いのに飲みっぷりがよいな」
「そうですか?」
コップ一杯飲んだだけですよ。
「言い方が悪かった。若いのに飲み方を知っているな」
ん? なんです?
「そなたは何者だ?」
「チェレミー・カルディムですよ」
それ以外の何者でもない。わたしはわたしだわ。
「逆に、コノメノウ様にはどんな風に見えているんです?」
なにかオーラ的なものが見えているのかしら? それともなにか取り憑いてます?
「完成された人の形だ」
ん? どういうこと? 完成された? まあ、確かにわたしは完成されたおっぱい大好き星人だけどさ。
「そなたを見たときから若さも弱さもない。わしを見る目に迷いも恐れもない。あるがままを受け入れた。とても十五の小娘のそれではなかったぞ」
まあ、確かに十五の小娘な態度ではなかったわね。年相応にするって無理だから伯爵令嬢としての仮面を被っていたし。
「自分でも変わっていることは承知しております。王宮から危険視されるのも。そして、コノメノウ様がわたしを確認するためにきたことも理解しております」
「わかっていたか」
「この国を守る聖獣様が引退とかあり得ませんしね。わたしが脅威となるか自ら確かめにきたとみるほうが自然です」
「そういうところが危険視されるのだぞ」
「それはすみません。わたしとしては世間の煩わしさから離れてゆっくりまったり、おもしろ可笑しく生きたいだけなんですがね」
さらに言うならおっぱいに囲まれて、キャッキャウフフな人生にしたいです。
「信用は一日にして成らず。好きなだけわたしを監視していてください。コノメノウ様が満足するまでね」
誰がいようとわたしは変わらない。望むものを捨てたりしない。イエス、おっぱい! ビバ、スローライフよ!




