600 触れちゃいけないサンクチュアリ 上
「貴女は……」
なにかを言いかけてムメイカラ様が言葉を飲み込んだ。
「……そう。検討してみるわ」
ぐっと堪えたように言葉を紡いだ。
まあ、神殿の在り方を一変させるような一大事。「じゃあ、あやろうか♥」とはならないわ。言葉を飲み込んだのはコノメノウ様がわたしに命令したからだ。
「コノメノウ様にも尋ねましたけど、神殿として渦をどこまで把握しているのですか?」
ムメイカラ様の言動から少なくとも一回は渦が発生した時代を生きているはずだわ。
「ほぼ知らないと言っていいわ。コルディーに渦が発生したことはないからね」
「コノメノウ様の力で防がれていたのですか?」
「…………」
口を一文字に結んだ。なるほどね
「見捨てたというわけですか」
「そうするしかなかったのよ」
「渦をどうにかできる方法があったのですか?」
問い詰めるようにコノメノウ様に尋ねた。
「…………」
「そうですか」
それは聞いちゃいけないサンクチュアリのようだわ。まあ、王国を守るには綺麗事で片付けられないか。
「まさに獣の思考ですね」
「そなたにはなにも言い返せんのが悔しいよ。すべてが完璧すぎる。人の思考だった」
「まあ、コノメノウ様やタルル様の魔力があったから。わたし一人で解決さしたわけではありません。運がよかった場面もありました。言葉がすぎました。申し訳ございません」
獣には獣なりの考えがある。失礼すぎたわね。
「いや、そなたの対応は未来が見えているかのような行動ばかりだった。正直、恐ろしいと思ったよ。こやつに充分な魔力と時間を渡したら王国すら支配してしまうのではないかとな」
「わたしは面倒なことに魔力と時間を使うことはありません」
これまで使ってきた魔力と時間はおっぱい──じゃなくてスローライフを送るため。王国を乗っ取るとか一秒たりとも使いたくないわ。
「そうだな。そなたは筋金入りの合理主義者だった」
「わたしは無駄を楽しむ感覚もちゃんと持ち合わせていますけど」
おっぱいに関しては合理的に物事を進めてきたけどね!
「それは個人的なことにだろう。そなたは貴族として王国の利と是で動いていた。そして、不利になることは絶対にしてこなかった」
していたら後ろから噛みつかれていたでしょうね。この方はずっとわたしを見ていたから……。
「王国の貴族が嫌なら王都を追い出されたときに他国に去っております」
貴族としての地位は生きるのに有利だ。少々の義務と責任くらい容認するわ。
「そなたが他国にいかなくてよかったよ」
「お酒が飲めなくなってましたからね」
「否定はしない」
うん。否定もできないでしょうよ。飲みながらそこにいんだからな!