594 技術 上
「今までの旅はなんだったのかしら?」
ムメイカラ様以下、魔力を持つ者が倒れる一歩まで魔力を絞り出し、五日で馬車を完成させました。どんだけやねん?
これまで使っていた馬車を見せてもらうと、よくこれで旅をしていたな~ってくらい乗り心地も装備も最悪でしかなかった。
「そう言えば、こんな感じだったわね」
王都と領地を行き来しているときはこんな質素な馬車だったわね。バネもなく魔法での緩衝もない。揺れに耐えられるガラスもないからレース状のもので埃を防いでいたものだわ。
……この世界、結構技術的に遅れていたのね……。
改めて知るこの世界の技術力。酷い時代に生まれたものだわ。
「チェレミー嬢。水はどうしているのですか?」
「雨のときに補給して内部で浄化。降らない場合は後部にある給水口から入れます。一応、この馬車四台分の水が入るようにしております」
「お風呂にも使われているの?」
「はい。循環しながら浄化しておりますので常に入れます。ただ、蒸発分もあるので小まめに補給することをお勧めします」
一人用の湯船でお湯に浸かりながら体を洗うしかないのが難点。そのせいで交代で入るしかないのよね。着替えるのも結構大変だし。
「……付与魔法で空間を広めることができるとは……」
「いろいろ研究しましたので」
「……ウワサに違わぬ賢さね……」
前世の記憶があったからできたこと。そうでなければキャンピングカーみたいなもの造れたりしないわ。
「ただ、馬車を維持するのにも魔力は消費します。充填を怠ると機能は死んで行きますのでご注意くださいませ」
便利を追及するとその代償も大きくなる。これはファンタジーでも代わらない法則だわ。
「食料もたくさん入るのですか?」
「馬車十台分の容量はあります。半分は冷やしておけるので生物も数日は保存できます」
「氷嚢まであるのですか」
「氷を作れるようにもなっています」
「至れり尽くせりですね」
「快適に移動したいですから」
馬で引いているから時速十五キロも出たらいいほうだ。道が悪ければ人が歩くより遅くなるわ。快適にしなけりゃ旅なんてやってらんないわ。巡礼団はやっているようだけど。
「付与魔法でなければ造れないのが残念です」
「別に付与魔法でなくとも造ることは可能ですよ。要は魔法の組み合わせです。火の魔法を使えば暖房に。氷の魔法を使えば冷房に。風の魔法を使えば車体を軽くしたり埃が入らないようにできます。魔法は威厳のためにあるのではなく使うためにあるのです」
主に魔法は貴族のもの。あることがステータス。それをよいものにしないのがこの国の悪いところでしょうね。これ以上は批判になるので黙りますけど。




