589 六興巡礼団 下
前のほうから明らかに雰囲気が違う女性がやって来た。おっぱいはCクラスと言ったところね。
「ムメイカラだ」
見た目と名前からしてこの国の者じゃない。そもそも人かも怪しい。
「妖狐ですか?」
「ミコノトと同じだな」
「コノメノウ様の血族で?」
「わたしは子を産んだことはない。変な想像するでないぞ。したら蹴るからな」
貴女のキックは付与魔法を貫通してくるんだから止めてください。あと、変な想像もしてません。
「お久しぶりです。コノメノウ様」
わたしたちの前に来ると、突然、跪いてしまった。コノメノウ様、こんなことさせてんの……?
「止めんか、鬱陶しい。わたしはもう引退した身だ。今はそなたが守護聖獣の立場だろうが」
守護聖獣の立場? そんな話、聞いたことないわよ? 重大な……いや、そういう情報は入ってこないか。貴族でも守護聖獣に関する情報なんて滅多に入って来ることはないんだからね。
「引退した身とはいえ、貴女様は我が王国の守護。敬意や尊敬は消えたりはしません。仰ぐべき存在です」
あー。コノメノウ様が神殿を飛び出したくなるのがよくわかった。こんなお方がいる神殿はさぞや窮屈でしょうよ。よく何百年といたものだわ。
「あなたがチェレミー嬢ね」
立ち上がったムメイカラ様に、今度はわたしが跪いた。
コノメノウ様の下のお方とは言え、わたしから見たら遥か上の存在。跪く存在である。
「立ってください」
わたしの手を取って立たせた。
「コノメノウ様が迷惑をかけたでしょう。この方は我が儘だから」
「うるさい。わたしは迷惑をかけたりはせんわ」
どの口が、って出そうになるのを無理矢理引っ込めた。その代償はいただいているんだからね。お酒を盗むのは止めて欲しいけど。
「相変わらずですね。チェレミー嬢。金銭的負担があるなら言ってください。増額させていただきますので」
「いいお方ではないですか」
毎月、金貨百枚を送って来てくれている。それがあるお陰でお城の建設費を捻出できているのよね。
「こやつは真面目すぎるのだ」
「その反動で酒カ──お酒好きになったのですね」
「その悪いクセは治っていないようですね。困った方です」
神殿の酒倉を漁っている姿が目に浮かぶわ。
「ムメイカラ様。停めてしまい申し訳ありません。まずは館に向かいましょう。団員の方々も長旅でしょう。湯を開放しますので汗を流してください」
露天風呂は二十人くらいなら入れる。交代で入れば半日で全員は浸かれるでしょうよ。
「それはありがたいわ。旅では汗を流すのも一苦労だから」
「お酒も用意しております。飲めない方にはリンゴを潰してハチミツを混ぜたものや山羊や牛の乳もありますのでご遠慮なく飲んでください」
毎月もらっているお礼はさせてもらいましょう。




