579 国の顔 下
「チェレミー様。マルガン工房です」
なんて話をしていたらカルディム領で有名な細工師の工房に到着してしまった。
可もなく不可もないカルディム領でもそれなりの規模がある。重税もかしてなく、それなりに暮らしやすい街。そこそこには商売は盛んであり、文化もそれなりにある。
目立たないながらも堅実に領地経営を行い、領民も満足している。平均的なところでしょう。
平均的なところだからこそ、平均的なものは大体揃えられる。細工師の工房もそれなりにあるのだ。
いくつかある細工師の工房でマルガン工房は店を構えたところだ。代々続けているようで、今で五代目なんだそうよ。
「よ、ようこそいらっしゃいました!」
領主の娘と代理領主の娘が来たらパニクるのも不思議ではない。笑顔でながしてあげましょう。
「突然ごめんなさいね。マゲルクス。あなたに作って欲しいものがあるの。先の注文のあとで構わないからお願いできるかしら?」
まあ、嫌だなんて死んでも言えないでしょうけど、配慮は見せておかないとね。変なウワサが立っても困るし。
「は、はい。も、もちろんでございます!」
緊張しいか? ちょっと落ち着きなさいよ。
「髪飾りと眼帯を作って欲しいのよ。こういうものよ」
デザイン画を見せた。
代々細工師の家系であり、本人も三十年以上、細工師として生きてきただけはある。仕事となると緊張が霧散してしまったようだ。
……カルディムにもこんな職人がいたね……。
「素晴らしい絵ですな。チェレミー様が描いたのですか?」
「ええ。本格的に絵を学んだわけではないから、多少の修正はしてくれて構わないわ。金属の強度は任せる。可能な作りかしら?」
「はい。問題ないかと。ただ、わたしは髪結いのことはさっぱりでして、どう使うか教えていただけますでしょうか?」
本当に、って言うのも変なものだけど、職人気質を持った者のようね。カルディムのような田舎に置いておくのが可哀想なくらいだわ。
「レアナ。ちょっと髪を解くわね」
可愛く結んである髪を解き、メイドから櫛を借りて髪をまっすぐにした。
「チェレミー様、慣れてますね」
「結構好きなんですよね。髪を結ぶの」
上から見るおっぱいもいいものよね。ついそっちに目が行っちゃうのが困ったちゃんだけど。
髪を纏めて後ろでお団子にしたら木の簪で髪を止めた。
「こうして後ろで纏めるものだけど、女性の目は必ずこの髪飾りに行くわ。前から見たとき、首を傾げたとき、後ろから見られたときの均衡を考えて欲しいの」
女性の目は厳しい。バランスを考えないと簪は映えないのよ。