536 ロジィー 上
目覚めてから二日でロジィーはベッドから出ることができた。
とは言え、肉体は生まれたばかりで筋肉は弱々。支えがないと一歩も歩けない。まずは車椅子で外の空気を吸わせて慣れてもらうとしましょう。
車椅子に浮遊の付与を施しているから押すのは簡単。朝のウォーキングに付き合わせ、終われば簡単なヨガをやらせて筋肉を鍛えた。
六日も続けると、よちよち歩きはできるようになった。
……やはり成人してからの肉体を鍛えるのは時間がかかるみたいね……。
それでも体は丈夫になってきている。焦らず続けるしかないでしょう。
「チェレミー様。わたしは、今後どうしたらいいのでしょう?」
「あなたが望むならわたしのメイドになって欲しいわ。もちろん、強制はしないわ。なにかやりたいことがあるなら応援するわ」
おっぱいは自由にしてこそ輝くもの。籠の鳥なんてわたしの主義じゃないわ。
「チェレミー様はなぜここまでしてくれるんですか?」
おっぱいのためよ! とは言えない。
「正直に言えばあなたが貴重な検体だからよ」
「……けんたい……?」
「あなたは渦を宿した者。渦は記憶にある?」
「はい。お伽噺で有名なので」
え? 渦のお伽噺なんてあったの? 初耳なんですけど!
「あなたには記憶はないでしょうけど、かなり深いところまで渦に侵食されたの。その体と心には一国の命運を握るほどの価値がある。あなたの身柄はわたしが、コルディアム・ライダルス王国が預かることになったの。だからと言ってあなたの思いを踏みにじることはしないわ。もし、やりたいことがあるならやってもいいし、愛する人ができたら結ばれてもいい。ただ、あなたは監視対象となるのは許してちょうだい。あなたにはお城を建てられるほどのお金と手間がかかっているのだからね」
籠の鳥にはしないけど、野に放つこともない。わたしの下で放し飼いで生きてもらうわ。
「…………」
「まあ、そう深く考えることはないわ。あなたは幸せになるの。いえ、幸せにならなければいけないわ。あなたのためにたくさんの命が失った。その者のためにもあなたは幸せになるの。でなければ、めでたしめでたしで終わるためにね」
このおっぱいを守れたならわたしの苦労など些細なこと。でも、渦に殺された者の意味を求めるなら物語はハッピーエンドではないといけないわ。
「……わたしは……」
「その不安は大切にしなさい。迷ったり落ち込んだりしたときに思い出しなさい。それは命の重さよ。たくさんの命を受け継いだ証よ。あなたは生きるの。その命が尽きる瞬間までね」
その手を握り、強く諭した。




