527 残酷なおっぱいのテーゼ 下
タルル様が転移させた場所は……どこだ? 霧でよくわからないわ。
「現と霊界《あの世》の狭間の森だ」
やだ、臨死体験!?
「その先にいる」
地面も見えないくらい濃い霧だけど、タルル様には先が見えているようなので信じて進むことにする。
しばらく歩いたらなんの前触れもなく霧が晴れ、とても美しい湖が目の前に現れた。
「その先にはいくなよ。帰ってこれなくなるから」
元の世界でいう三途の川的な?
前世の肉親が手を振っていることもなし。ただ美しい湖が広がっているだけ。元凶さんはどこですか?
「魔法が使えるんですよね?」
使えませ~ん。テヘペロ♥ とか言ったらブッ殺すからな。
「問題なく使える。ただ、湖には入るなよ。そこから……」
死ぬとかなんでしょ。ハイハイ、わかってますって。
「くるぞ」
目の前に黒い靄が発生。どんどん黒く渦を巻いてきた。
「捕まえろ」
ほんと、守護聖獣って説明不足か説明下手よね。と言うか、事前の打合せとかして欲しいものだわ。想定外の場所に連れてこられていきなりやれとか鬼でしょう。
まあ、捕まえるんですけどね。ホイっと。
「はい、捕まえました」
「……身も蓋もないな……」
結界に閉じ込められた元凶──妖精になんとも言えない顔を見せていた。
「もう何回渦を相手していると思っているんですか? さすがに苦戦することはありませんよ」
最大の問題は居場所だけ。それが解決したら渦なんて脅威でもなんでもないわ。見せ場がなくて申し訳ございません。
「破られることはないのだな?」
「渦の力はすべて魔力に変換しております。暴れれば暴れるほど魔力をいただけます。無限なら魔力発生装置として使いたいところです」
これがあれば魔力供給問題が片付くわ。
「止めてくれ。忍びない」
「わかっています」
わたし、約束は守るタイプなので反故にするつもりはないわ。
「今ならまだなんとかできますよ」
「やってくれ」
タルル様の決心に揺らぎはないようだ。
魔力を籠めた指輪を使い、元凶を浄化させる。
闇色に染まる渦がキラキラと輝き、閉じ込められていた魂が、光の粒が結界から抜けていく。
あった。ロジィーの魂。
「あの男の思い人か? よくわかったな」
「わかりますとも」
魂には宿していた器を記憶している。なら、わたしにはわかる。ロジィーはGだってことに。
「このことは内緒ですよ。わたしも口をつぐみますので」
髪から肉体を造り出し、魂を戻す。タルル様から見たら禁忌に近いものでしょうよ。
「もう何度も罪を重ねた身だ。一つ増えたところで気にもせぬよ。ただ、お前はそのままでよいと思うがな」
はい? なんのこと? なに言ってんだ、この方は?
「しかし、渦が濃すぎて時間がかかりますね」
「どのくらいかかるのだ?」
「うーん。この感じでは数日はかかりそうですね。このまま持ち帰りますか。壺に入れておけばいい感じに浄化してくれるでしょう」
「危険はないのか?」
「問題ありません。この世から跡形もなく消し去ります」
変換した魔力も指輪に収まり切れないしね。帰ったほうがいいわ。
「わかった」
と、あっさりと転移するタルル様。まったく非情なお方だこと。