526 残酷なおっぱいのテーゼ 上
「こんにちは。ロズィーさん」
神殿の地下牢。相も変わらず死んだ魚のような目をしていること。
「…………」
この状況になっても人という生き物は死ぬことができない。生存本能はそれだけ強いのかしらね?
「あなたが密かに隠している愛しい方の髪の毛をいただきますね」
それでやっと死んだ魚のような目に火が宿った。
「ごめんなさい」
男に拘束の付与を施した。
首にしているチョーカーを切り落とした。
「わざと外せないようにするとか愛の深さがよくわかるというものです」
返せと怒りを目に浮かべるけど、わたしの拘束を破ることはできない。愛や憎しみだけではどうにもならないのよ。
「あなたは一生ここから出ることはできない。でも、あなたが愛した者は復活させてあげる。あなたが知らないところでね」
DNAさえ残っていればわたしの付与魔法を駆使したら体を再現できるのよ。
「あなたの愛しい人の魂は渦に取り込まれている。本当ならあなたも渦に取り込まれていたのに残念だわ」
渦は意識体みたいなもの。生命体の思念を糧に大きくなっている。
そこんところの仕組みは全然わかってないけど、魂が取り込まれるまで時間がかかるっぽいのは浄化するときに感じたと、巫女たちが証言されているわ。
この男が渦を宿した時間と記憶からしてまだ魂は溶けていない勝算は高い。なら、まだ魂を取り戻すことは可能だ。わたしの付与魔法ならできるはずだ。魔力はたくさんあるんだからね。
「あなたの愛しい人はわたしが復活させて、わたしが連れていく。あなたの知らない土地であなたじゃない男が幸せにしてくれるでしょうよ」
わたし、残酷~。おっぱい星人でごめんね~。
「あなたはここで愛しい人が幸せになるのを祈ってなさい。死ぬそのときまで」
ときどき実験はされるでしょうけど、それはあなたの自業自得。たくさんの命を奪った罰。安らぎなんて与えられないわ。
「………」
なにかを口にしたいようだけど、あなたにはしゃべることも許されないのよ。しゃべれたとしてわたしは聞いてあげないけど。
「これからわたしは元凶をこの世から跡形もなく消し去りに向かうわ。ごめんなさいね、あなたが不幸になる前に現れてあげられなくて」
それができたら救ってあげられたのにね。
「呪いなさい。憎しみなさい。そして、祈りなさい。誰にも届かない牢獄の中で」
男のおでこにキスをしてあげた。愛しい人がしてくれたように、ね。
「もう二度と会うことはないでしょう。さようなら」
男から離れ、タルル様に転移してもらった。元凶の下に。