525 キリッ 下
まあ、気持ちを切り替えてがんばるとしましょうかね。
準備と言っても前々から用意はしていた。ただ、足りなかったのは魔力だけ。これさえ揃えばわたしの付与魔法はチートとなる。惜しみなく使うとしましょうかね。
「タルル様。自身の魔力は万全ですか?」
最終的な用意を整えたらタルル様に声をかけた。
「万全だが、なにをさせる気だ?」
「救世のお時間です」
キリッ。
「悪いことをするときの顔だな」
飲兵衛は大人しく酒でも飲んでろや。
「救世? なにを救おうとしているのだ?」
「救える者はすべてです」
この世界を創った者がいるとしたらわたしと同じハッピーエンド厨なのかもしれないわね。
ただ、選択肢が多すぎてハッピーエンドに辿り着くにはプレイヤーの努力と実力が必要、ってとこでしょうね。
……ん? もしかして、わたしってプレイヤーの一人ってこと……?
「まあ、世界は無慈悲であり無情、そして、不公平。救えない命にはご冥福をお祈りしておきましょう」
南無南無。
「ラグラナ。しばらく出るからあとはよろしくね」
「また危険なことをするのですか?」
「危険はないわ。用意は万全。想定外もないわ」
さすがに完璧とは言わないけど、魔力さえあれば元凶に負けることはないわ。
「半日もかからないで終わらせるから安心しなさい」
「大言壮語だな。変なところで転けるなよ」
「そうですね。気を引き締めて行動するとしましょう」
ナメていい相手ではないのは確か。強敵に挑む気持ちで事に当たるとしましょうか。
「お気をつけて」
「ええ。十二分に気をつけるわ」
軽く準備運動をして体を解し、気を引き締めた。
「タルル様。まずは王都の神殿。渦を宿した男のところに向かってください」
「あれも救うのか? 罪なき者を殺した男だぞ」
「誰も救うとは言っておりません。罪は一生背負ってもらいます。ただ、後悔を与えるだけです」
あの男が犯した罪は重い。許されないことだ。だからこそ後悔してもらわなければならない。それが救いになるかはあの男次第だ。
「……それは、約束を果たすことに繋がるのだな……?」
「繋がります」
わたしの付与魔法、ナメるなだ。
「わかった。すべて、お前に任せる」
「はい。お任せください。元凶は必ずこの世から跡形もなく消し去ってさしあげましょう」
渦は無理。あれは自然現象みたいなもの。本当になくしたいのなら世界樹を伐採するしかない。わたしがこの世から跡形もなく消し去るのは元凶だ。それだけはわたしの手でやってあげます。
「じゃあ、いってくるわ。帰ってきたらすぐに温泉に入りたいから用意しててね」
「畏まりました」
「タルル様」
「うむ。いくぞ」
タルル様がわたしの頭に降り立ち、王都の神殿へ転移した。




