521 案内人(影) 下
この村は小さく、主要産業もない、小さな畑で細々と暮らしていた村だ。
村民も百人とおらず、温泉が出る地だとだけ知られていたそうだ。
辺境区のコソノ村と呼ばれていたらしいけど、今は王家直轄領となり、コソノ町として改められたそうよ。
ここを開発するために職人がたくさん呼ばれ、それらの者を世話をする人も集まって、三百人に膨れ上がっているわ。
さらにそれらの者相手に商売しようとする商人や近隣の村々からも人が集まっていて、なかなか賑わいを見せていた。
「来年には町になっているわね」
温泉が沸き出るところは他にもある。宿ができて観光地になるでしょうね。
「チェレミー様の銅像が立っているかもしれませんね」
「それは止めて欲しいわ」
目立つとしてもそんな悪目立ちはしたくない。知る人ぞ知るくらいでちょうどいいのよ。
案内人(影)のタタナが連れてきてくれたところはちょっとした丘で、コソノ町の畑が見える場所だった。
「こちらにも畑があったのね」
館の裏に広がる畑だけだと思っていたわ。
「なにが植わっているの?」
「主にカブと豆です」
よくうえられる作物か。それだけ厳しいってことなのね。
「獣って出るの?」
「小型の鹿がよく出ます。わたしたちにはありがたい獣ですが」
あ、設定は続けるのね。
「何匹か狩ってきてくれる? どんな味か知りたいわ」
鹿も土地土地で味が違うもの。美味しいならお土産に持って帰りたいわ。
「あ、その鹿はたくさんいるの?」
「はい。害獣とされていて村の者は困っております」
鹿にしたら人のほうが害獣でしょうけど、無闇に増えると鹿としても困ることになる。ほんと、バランスよく生きるって大変よね。
しばらく畑を眺めたら館に戻る。
歩いて三十分の距離だったけど、なかなかいいコースだったわ。やはり景色が変わるとウォーキングも楽しいものよね。
館に着くと、巫女たちがいた。どったの?
「チェレミー様。わたしたちもウォーキングにいきたかったです」
「次は誘ってください」
あらやだ。可愛いこと言ってくれるじゃない。
「ごめんなさい。では、ヨガを一緒にやりましょうか?」
「ヨガ、ですか?」
「体幹を鍛える運動よ。巫女たちは運動不足がちになるから毎朝やるといいわ」
あ、そうだ。ヨガをするのに適した服を作ってもらうとしましょうか。おっぱいぷるんなレオタードを。
ん? レオタードって下着のまま着るのかしら? それとも着けないの? そういう系にまったく興味ないからわからないわ。
とりあえず、今日はウォーキングウェアでやることにしましょう。
「ラグラナ。用意をお願い」
「外でも構いませんか? 場所がないので」
確かに六人がヨガをするような場所はないわね。職人にお願いしようかしら?
「任せるわ」
用意ができるまで巫女たちとおしゃべりすることにした。




