478 暁の帝国 下
買うものは買ったので、バルセイグ家私有の船を見に向かった。
遠くからでも大きく見えたけど、こうして近くで見ると小山のようね。八十メートル──いや、百メートルはあるかしら? この時代でもこんな大型船を造れる技術があるのね……。
「素晴らしい船ですね。技術力の高さがよくわかります」
これ、転生者とか関わってない? 技術が高すぎるんですけど。
「チェレミー嬢は船にも詳しいのね」
「そこまで詳しくはありませんよ。こんな大きいもの岸壁に繋げられる技術が考えつきませんしね」
タグボートがあるわけでもあるまいし、よく岸壁につけられたものだわ。
「……本当に詳しいのね……」
「マニエリ。わかるかしら?」
「恐らく風の精霊術を使っているのではないでしょうか? これだけの帆があれば可能かと」
やはり風か。まあ、それでもこの巨体を動かせる風を吹かすとかとんでもないわよね。人に使ったら空とか飛べそう。
「チェレミー嬢の騎士まで博識なのですね」
とはルーセル様。ここでは一番影が薄くなっているわ。
「マニエリは帝国人であり、お父上は帝国の艦隊を預かる方ですので詳しいと思っただけですわ」
マニエリから船の話を聞いたことはない。ただ、知ってっかなーってくらいの軽い気持ちで訊いたまでよ。
「帝国人を護衛にさせているのですか?」
「わたしは誰であろうと能力があるなら騎士にするだけです」
能力と書いておっぱいと読んでいます。
「板にもなにか膜を張っていますね。どんな技かは知りませんが、かなり高い技術というのはわかります」
精霊術はこんなこともできるのね。もしかして、エルフにもギフテッドみたいなものがあるのかしら? 精霊術でメッキとかできるとは考えつかないわ。
「今、荷物は空の状態ですか?」
「え、ええ。まだ出港しないから」
左舷側を見せているけど、板が綺麗すぎて喫水線がどこかわからない。どうやって重さとか確認しているのかしら? 謎が多すぎる船よね。
「乗ってみますか?」
「よろしいのですか? 機密ではないのですか?」
これだけのものを見せるとか、レアルーナ様の国では常識的な知識なの?
「いえ、機密というほどのものではありませんね」
「…………」
「な、なにか?」
「いえ、見せても理解されない技術なのか、見せても造れない技術なのか、それともレアルーナ様の国では常識的な知識なのかなと考えただけです。マニエリ。どう思う?」
「見せても理解されない技術だと思います。帝国では最新鋭の船に一般人は立ち入りを許しませんから」
「だ、そうです。如何なさいますか?」
「……申し訳ございません。乗船を撤回させてください」
頭を下げるレアルーナ様。この国の出とは言え、国を守るために頭を下げられるか。なかなか賢婦よね。




