477 暁の帝国 上
「どんだけ買ってるんですか?」
お店を閉店にさせたいの? バルセイグ家を破産させたいの? それともわたしの収納を満杯にしたいの? なんなの?
「あるときに買っておかんと後悔するからな」
どこのオタクよ? 海産物なんてまた買えばいいでしょうに。コルディーにも海はあるんだからさ。
「そなたは買わんのか? まあ、わたしが買い占めてしまったが」
「大丈夫です。わたしが欲しいのは貝殻ですので」
「貝殻?」
「はい。貝殻です。ロンドベル殿。貝殻、売っていただけますか?」
「はい。もちろんですが、貝殻でよろしいのですか?」
「貝殻を売っていただきたいです。あればあるほど売って欲しいです」
不可解なロンドベル殿が貝殻を捨ててある場所に案内してくれた。
「貝の消費が結構あるんですね」
商会から馬車で三十分のところに貝殻の山が聳えていた。どんだけよ?
「コノメノウ様がお買いになされたミルシ貝がよく獲れますので」
ホタテをミルシ貝って呼んでいるんだ。なんか貝を食べるエルフとか夢がないわね。
「この山でどのくらいの値段になるのかしら?」
「いえ、片付けていただけるのならこちらがお金を出したいくらいです。年々溜まる一方ですので」
「では、無料でいただいてもよろしいですね」
「はい。チェレミー様がそれでよろしいのでしたら」
商談──ではないけど、成立ってことで貝殻の山を収納の壺に吸い込んだ。
量が量なので商会の人に任せて、終わったらお城に届けてもらうことにした。
「あ、そうそう。ロンドベル殿。もし、コルディアム・ライダルス王国にくるようなことがあればこれを使いなさい。バナリアッテならわたしの名が通じるでしょう。ここからいけるかはわからないけど」
地図がないから距離や位置がわからない。地図は国家機密級のものだからね。こうして他国の者を自由に移動させるのが変なのよ。
「よろしいのですか?」
「大丈夫よ。今の王国は他国との貿易を見て見ぬ振りをしているから。バナリアッテはそんな港です」
コルディーはそこら辺を軽視しているから困るわ。もっと広い目で世界を見て欲しいものだわ。
「国交を結べる国は多いほうがいいとわたしは思っているわ。世界は、一国だけで成り立つものではないからね。未来を先んじたいのなら今が好機よ。わたしは、帝国とも伝手を築いているところだからね」
「……暁の帝国とですか……」
へー。ゴズメ王国では暁のって呼ばれているんだ。所変わればってヤツね。
「ええ。今はまだ弱い繋がりですけど、将来は太い繋がりとなるとわたしは信じております」
まあ、そう遠い未来ではないでしょうよ。




