461 経験 上
「そろそろだ」
それを大福を食べながらじゃなかったら緊張感も生まれるんでしょうね。
まあ、渦はもう怖い存在ではないので緊張感なんていらないけど。
「──チェレミー嬢、ここからは我らが出番だ。抜剣!」
レオのスピードを落とすと、左右から聖騎士たちが駆け抜けていった。
「巫女たち、囲むように散会しなさい! 逃がしてはダメよ!」
そう指示を出したらわたしはレオの足を停めさせた。
「どうした?」
「ここから先はゴズメ王国の活躍の場。わたしが出しゃばるのは止めておきます」
これは巫女や聖騎士に経験を積ませるもの。わたしが出ては意味がないわ。
「恐らく、渦はこれから各地で発生していくでしょう」
「どうしてそう思う?」
「流れから、ですかね」
「流れ? どういうことだ?」
これが物語なら今は序章でしょう。まだ異界から巫女を呼ぶ時期ではないからね。喚ぶならもうちょっと被害が出てから。追い込まれてからが聖女の出番だからね。
なんてことを言っても理解されないだろうから資料からの推測だと言っておく。本当にそうなるかもわからないのだからね。
「前回が約五百年。エルフの寿命からしてもかなり過去の話。物語の中の出来事と言っていいでしょう。タルル様はそのとき生まれていましたか?」
「わたしは別から流れてきたからな、当時のことは知らん。知る者もいないだろう」
妖精は千年生きると聞いたことがあるけど、タルル様は五百年も生きてないのではないかしら? 妖精としては若いんだと思うわ。言動が俗っぽいからね。
「タルル様。これを見ながら渦を見てください」
モノクルをタルル様に持ってもらい、渦を見てもらった。
「見えますか?」
「ああ。見える」
「そのまま見ててください。モノクルに渦の気配を覚えさせますので」
付与魔法も万能ではない。知らないものを付与を施すことはできない。でも、いくつかの工程を辿れば渦を見つけるセンサーを作ることも可能なのだ。
「ちょっと魔力をもらいすぎましたね」
自らの魔力で工程を作っているけど、どんどん魔力を持っていかれているわ。
「マニエラ。悪いけど、魔力をちょうだい。わたしの魔力では足りないわ」
手を差し出すと、すぐにわたしの手をつかんでくれた。
「ありがとう。活躍の場は与えてやれないけど、学ぶ場は与えてあげる。渦がどんなものか見ておきなさい。渦が帝国に現れないとも限らないのだからね」
発生はゴズメ王国に多いみたいだけど、帝国にも世界樹の伝説があるとマニエラから聞いた。なら、渦が発生しているかもしれない。いや、魔物が発生していることからして渦は発生しているんでしょうよ。
「はい。しっかりと学ばせてもらいます」
マニエラも変わった者よね。わたしのところにきたところは勝ち気なところがあったのに、今はとても落ち着いているわ。
三級くらいの魔力だけど、なんとか渦を感知できる付与を施せた。




