43 学園
朝食をいただいたら一休み、とはならず、叔母様からグリムワールを求められて創ることになってしまった。
……報連相ができた城でなによりね……。
とは言え、叔母様が使うもの。そこら辺に落ちている枝をそれっぽく削って渡すわけにはいかない。領主代理夫人として見劣りしないものでなくてはならない。
いや、指輪じゃダメなんかい!
「指輪をすべての指に嵌めるのは下品なのよ」
わたし、すべての指に嵌めてますけど。
「あなたは必要だから嵌めているのでしょう。それに、お洒落に仕上がっているし」
これは身を飾るものではなく身を守るものです。欲しそうにみてもあげられません。
「叔母様。今日の予定は?」
「特にないわ」
なら、魔力を八割いただいても支障はありませんね。
魔力充填箱に魔力を籠めてもらった。
普通なら意識を失うところだけど、叔母様は立ち眩みていどで収まった。マジですか!?
「叔母様、魔力保持二級でしたよね? 魔力量、完全に一級ですよ?」
わたしの八割に匹敵する魔力を充填した。わたしなら立つのもやっとなのに、立ち眩みだったら六割ていど。なら、叔母様の魔力量は一級くらいないと計算が合わないわ。
……どんな計算? とか訊かれたら答えられないけどね……。
「内緒よ。一級だと嫌な相手のところに嫁がれそうだったから二級で抑えていたのよ。昔から魔力操作は得意だったからね」
魔力操作が得意って、一級だったら確実に領主級に嫁げたはず。どんだけ嫌なヤツだったのよ? ってまあ、わたしも同じことしたんだからなにも言えないけどね……。
「チェレミーは学園に通ってないからわからないでしょうけど、女子の間では密かに伝えられている技なのよ」
トイレもまともに発展させられないのに、無駄に学園なんぞ築いてなにをするのかと思えばエゲつないこと教えているわね。キャッキャウフフな学園生活♥️ とか夢見てたら大変なことになってたわね……。
「学園、怖いところなんですね」
「そうね。あなたなら大変なことを仕出かしていたでしょうね」
大変なことになっていた、ではなく、仕出かしていたってところがわたしを理解しているわよね。
「ま、まあ、叔母様が一級なら好都合です。毎日、魔力充填箱に半分の魔力を籠めてください。それなら日々の公務にも影響はないでしょうし」
半分ならちょっと疲れたていど。休憩すればすぐに回復するでしょうよ。まぁ、食事の量や睡眠は長くなると思うけど、慣れれば問題ないわ。
「……わたし、なにかやってしまったかしら……?」
「大丈夫ですよ。わたしもしょっちゅうやらかしてますから」
「……そんな笑顔で言うことではないわよね……」
わたしはもう、笑わなくちゃやってられないって状況ですけどね!
ともかく。城での魔力調達はできた。叔父様の魔力も混ぜればわたしが使える一日分となる。これなら火つけ杖はこちらにやってもらえるわ。
壺に杖を入れれば付与できる壺を叔母に渡し、今いただいた魔力でグリムワールを錬金作成をした。一割使ってねっ。
「この箱に魔力を入れてまたグリムワールに魔力を籠めるって酷くないかしら?」
「わたしは毎日やってますよ」
今はマシになったけど、少し前までは一日の起きている時間が八時間くらいだったわ。
なにも言えなくなった叔母様に、グリムワールの使い方を教えた。
やはり魔法を使える人はスムーズにグリムワールを使えるわね。いや、元々魔法操作が得意な人だからスムーズなのか。これなら創造の付与を施したらわたしの代わりになるかもしれないわね……。
「……なにか悪い考えをしているけど、わたしには公務があることを忘れないでね……」
そうでしたー。
「ま、まあ、魔力をいただけるだけでも大丈夫ですわ。うふふ」
わたし一人分の魔力でもやれることは多い。なにより、火つけ杖の作業が減るのだから助かるわ。付与を施すのは簡単でも百や二百ともなれば手間でしかないもの。
「火つけ杖は叔母様たちに任せます。運ぶのも大変なので」
冒険者も常に雇えるわけじゃないし、手間賃もバカにならない。削れる経費は削っておかないとね。
「あと、館の維持費を領地のお金から少し回していただけると助かります」
火つけ杖の販売はそちらに渡したのだから少しくらいお零れをくださいね、と可愛く笑ってみせた。
「……わかったわ。旦那様に話しておきましょう。ですが、それほど回せませんからね」
「はい。多少で構いませんわ」
わたし手当ができたのなら世間に言いわけも立つし、裏資金も持てる。なにかあればカルディム家から攻めなくちゃならない。可もなく不可もなく、極々普通の伯爵でも経済攻撃しようとしたらそれなりの大きさがないとならない。
それだけの敵が動けば必ず予兆は出る。出なくとも周辺に出る。一領地を狙うなんて早々できないのよ。
……国を狙うならもっと大変。今回のように世間を騒がせるものになるわ……。
「杖の意匠に飽きたらいつでも言ってくださいね」
使い切れない魔力はグリムワールから魔力充填箱に。そして、魔力充填壺に貯まるようにしておきましたから。ふふ。




