402 聖水 下
周辺に聖水を散布したら伯爵のお城に帰った。
その日は、巫女たちにはゆっくり休んでもらい、わたしは報告書を書くことにした。
と言ってもそこまで深い内容を書くほどでもない。紙一枚で纏まってしまったわ。
「ラグナナ。明日帰るからよろしくね」
ゆっくりロスク伯爵領を見学したいところだけど、いつまでも渦に関わってらんないわ。さっさと終わらせて温泉にいきたいわ。
借りた部屋でゆっくりしていると、伯爵夫妻とライルス様が面会を求めてきた。
ゆっくり休ませてよ。と、思いはグッと堪え、面会を了承して部屋に招いた。
夕食はまだなので、伯爵様のところのメイドが淹れてくれたお茶だけをいただいた。
「それで、どうかしましたか?」
「渦のことです。本当に渦は消えたのですか?」
まあ、伯爵様としたら渦が発生したことで不安になっているのでしょう。国を滅ぼすような災害と認識しているんですからね。
「消えました。それは断言できます。封印の壺が発動しませんでしたから」
潜んでいたり見えないほど小さかった場合を考えてちゃんと封印しようと試みたわ。
「チェレミー嬢の言葉を疑うわけではないが、ゴズメ王国は長い間、渦に苦しめられてきた。貴女の言葉だけでは信じられないのだ」
「それは理解できることなので失礼だとは思いませんわ。わたしも皆様が信じられる手順を踏めばよかったと反省しております。まさか渦があれほど弱い存在だとは予想できませんでした」
安全を考えてコノメノウ様二人分にしたけど、一人分で充分だったわ。
「……よ、弱い存在なのか……?」
「まだ生まれたばかりの弱い渦だったのでしょう。早期発見早期浄化すれば渦はそれほど驚異ではありません。聖水だけで片付けられます。もし不安なら世界樹の葉をばら撒くとよいですよ。それだけで渦は発生し難くなると思いますから」
世界樹自体に浄化作用がある。葉からでも聖水を作れたのだから撒いただけでも多少は浄化できるはずだわ。
「渦がどうやって生まれるかまではわたしにはわかりません。ですけど、そこまで恐れる存在ではありません。言ったように早期発見早期浄化をしたら恐れるに値しません。それは、ゴズメ王国の問題です。わたしが口を出すことではありません」
どのような体制を敷くかは国王陛下次第。そこまでわたしが関わることではないわ。いや、渦自体に関わることもないんだけどね。そこはコルディーのためってところよ。
「どうしても不安と言うならこれを使ってください。世界樹の枝で作った浄化の杖です。持ち手の魔力を使用しますけど、渦が小さいのなら浄化することは可能ですから」
グリムワールを出して伯爵様に渡した。
浄化したあとの後始末も報告書に書いておかないとダメね……。




