40 婦人会
まだ十歳と八歳の子供の魔力では三十分も出し続けることはできない。ぐったりとしゃがんでしまった。
「メアリア。二人を休ませてあげて。軽い魔力疲労だから少し休めば回復するわ」
これを何度も繰り返せば魔力量も増えていくし、魔力循環もよくなる。自己流だけど、練度向上にはこれが一番だと思うわ。
「ナジェス。レアナ。ゆっくり休みなさいね」
休むのも練習の一つ。無理するだけが練習じゃないわ。
抱っこで連れていかれる二人を見送ったらわたしも休むために自分の部屋に戻った。
「お嬢様。部屋はもう少しで調います」
ラグラナとマーナが館から持ってきてくれた椅子と簡易トイレ、壺などを調えていてくれた。ランは護衛として後ろにいますわよ。
「ありがと。少し休むわ」
城にきたからと言って毎日の魔力籠めは休みにならない。壺は今日持ってきたけど、指輪にも魔力を籠めているんですよ。
愛用の椅子に座り、夕食まで休──もうとしたらメアリアがやってきた。なに?
「お休み中申し訳ありません。奥様がお会いしたいそうです」
次は叔母様かい。まったく、忙しいわね。
「わかったわ。すぐいくわ」
否と言えない立場。意を決して椅子から立ち上がった。
ランからラグラナにバトンタッチして叔母様の部屋に向かうと、ご婦人が二人いた。
わたしの記憶にはなく、衣服からして貴族ではない。領都の有力者の奥様、ってところかしら?
なんて考えている一瞬の間にご婦人の二人が席を立ち、お腹の前で手を重ねてお辞儀をした。やはり有力者の奥様のようね。
お互いの力関係がわかれば伯爵令嬢としての対応をする。
軽く頷き、メアリアが促す席に座った。
「チェレミー。こちらはラアナオ婦人よ」
どこそこの夫人ではなく、名前に婦人をつける場合は、個人としての力があるときか叔母様の友人だったときだ。年齢的に叔母様の友人とみるべきでしょうね。
「初めまして。ラアナオ婦人。お久しぶりです、マルヤー婦人。このような顔でお二方の前に立つことを許してくださいね」
誰も言わないから忘れてしまいそうになるけど、わたしの顔には火傷の跡がある。人前に立てるような身ではないのだ。
……館ではいろんな人たちに会っているけどね……。
「そうだったわね。あなたが堂々としているから忘れていたわ。ごめんなさい。配慮が足りなかったわ」
「構いませんよ。自分の顔に興味はありませんから」
おっぱいを見れる目と匂いを嗅げる鼻。スリスリできる頬。バインバインできる手があるならわたしはどんな顔でも気にしないわ。
「ただ、お二方の気分を害してないかが心配ですわ」
決して気分がよくなる傷ではない。下手に気を使われると申し訳なくなるわ。
「いえ。わたしどもこそ配慮にかけました。お嬢様の傷を知っていながらこうしてお邪魔してしまったのですから」
「お互い様と言うことでこの場を収めましょう。叔母様。わたしを呼んだのはどんなご用でしょうか?」
謝罪大会になっても面倒だしね。さっさと用を済ませましょう。
「そうね。実は、今度婦人会で孤児院へ慰問があるの。そこで寄付を求めようと思うのだけれど、年々きてくれる人が減っているの。なにか知恵があったら貸して欲しいの」
婦人会なんてもんがあったの? あと、孤児院があることも初耳なんですけど。
「……いつもはなにをしていたのですか?」
「子供たちが歌ったり劇をしてたりするわ」
そりゃ、年々人が減るわよ。なにが楽しくて子供の歌や劇を観にくるのよ。付き合いだとしても飽きるわよ。
「寄付をするのはいいと思いますが、孤児の未来を考えるなら歌や劇をやらせるより教育を施すほうがよろしいと思いますよ」
それが偽善だろうとも誰かが救われるならやればいいと思う。綺麗事が罷り通る世界でもないしね。ただ、本気で孤児のためにやるなら歌や劇なんて子供たちも迷惑でしかないわ。
「そうなのだけどね……」
叔母様もわかってはいるか。ただ、本気でやってないからやることが中途半端になるんでしょうよ。
「孤児は何人いるんですか?」
「約三十人はいるわ」
結構いるものなのね。親と生き別れだったり捨てられたりするのかしら?
「もし、次やるとしたら歌や劇ではなく、街の清掃をやらせるといいかもしれませんね。ご婦人たちも参加してゴミ拾いをするのです。終ればお疲れ様会をして孤児たちと一緒のものを食べる。必要であればわたしも参加します。それなら寄付も人も集まるでしょう」
孤児院があることに気づかなかったのは失念だわ。あると知っていたら利用できたのに。わたし、無能すぎるわ……。
「……いいの? わたしたちは慣れすぎて気にもならないけど、他の者はそうではないのよ……」
「構いません。陰口を叩きたいのなら好きなだけ叩けばよろしいわ。わたしの矜持になんら影響はありません」
わたしのおっぱい道は陰口ぐらいで折れたりはしない。堂々とわたしはおっぱいを愛でるわ!
って、違うわね。それはわたしの生き方。今回はカルディム家の娘として、貴族の義務としての矜持だったわね。
「わたしは、お父様に頼まれたことがあるのでお手伝いはできませんが、婦人会に参加することはカルディム家としての利でもあります。呼んでいただければ喜んで参加させていただきますわ」
婦人会としてもカルディム家の娘が出ることは利になる。ウィンウィンといきましょうよ。




