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4 諸君。わたしは──

 諸君。わたしはおっぱいが好きだ。


 諸君。わたしはオッパイが好きだ。


 諸君。わたしはおっぱいぱいが大好きだ。


 あの形が、あの大きさが、あの柔らかさが、大好きなのだ……。


 ──なに言ってんだお前?


 とか言わないで欲しい。わたしの心は男。女性になろうとして、女性になれなかった男なのよ。


 心が男なら女の子に興味があったって不思議じゃない。見たり触ったり嗅いだりしたくなるのも仕方がないないじゃない。わたしはおっぱいぱいが好きなのよ!


 じゃあ、自分のでも見てろよ!


 ふっ。わたしの胸はAAなのよ。多少、膨らみはあるけど、十五歳の胸ではないわ。絶望的なまでにないのよ……。


 お母様は見事なまでの巨乳なのに娘が貧乳とか、前世のわたしはどれだけの罪を重ねたのかしら? わたしとしてはただのおっぱい星人なだけだったのに……。


 おへそが見えてしまうほどの自分の胸に興味はありません。美乳、巨乳、バインバインさんはわたしの前にきなさい。わたしに見せるのです!


 なんて叫べないけど、女なら見る機会はあるはず。そう思っていた五歳の春。(たらい)で六十のおばあちゃん侍女に体を洗われながら泣きました。


 この世界、風呂ねーでやんの。いや、あるにはあるらしいけど、王宮やお金持ちの貴族が所有しているていど。可もなく不可もない伯爵家では持つことができませんでした。


 まあ、お母様は、バスタブみたいなものにお湯を溜めて侍女に洗って貰っていたようですけど、それも夜会の日や特別な日(ニャンニャンする日ね)くらい。毎日ではない。普段は侍女に体を拭いてもらうそうよ。


 この世界がゲームか漫画の世界なんじゃね? と思うことは多々あるのだけれど、お風呂とかトイレとかはなぜか中世時代なのよね?


 ……ほんと、椅子型のおまるとか泣けてくるわ……。


 今も夜はラティアに体を拭いてもらい、排泄は椅子型おまる。片付けは下男の仕事なのよ。


 これがこの時代の当たり前なのだけれど、ウォシュレットを知っている身では屈辱でしかない。わたしは、お風呂に入って、トイレはウォシュレットを使いたいのよ!


 諸君。わたしは風呂を望んでいる。


 諸君。わたしはウォシュレットを望んでいる。


 諸君。わたしは女の子との混浴を望んでいる。


 よろしい。ならば、造ろうではないか。


 ──なんて茶番はこのくらいにして、わたしの欲望──ではなく、望みを叶えてくれる職人と打ち合わせを致しましょう。


「アルド。このようなものを造って欲しいのです」


 机の引き出しから設計図を出して職人のアルドに見せた。


「……これは、貯水槽ですかい?」


「ええ。貯水槽よ。そこに水を溜めて、こちらの低い貯水槽に流れるように造って欲しいの」


 お風呂文化がないのだから「お風呂を造って」と言っても伝わるはずもない。貯水槽として造ってもらい、お風呂として使えばいいのよ。


「しかし、この造りだと水を溜めるのは難しいのでは?」


「そこは別の職人にお願いするわ。アルドにはこの絵の通りに造って欲しいの。準備金として金貨を五枚、渡しておくわ」


 家令となったマクライにお金を出させた。


「いや、こんなには……」


「これは試し。本当に欲しいものを造るための練習よ。その時間を買ったお金でもあるわ。誰か一人の職人を専門として育ててちょうだい」


 この貯水槽はトイレにも使う。目指すは水洗トイレ。そして、ウォシュレット。誰も造ったことがないものを造ってもらうのだから金貨五枚など惜しくないわ。


「わ、わかりやした。仕事がいただけるなら引き受けさせていただきやす」


「ええ。あなたたち職人の仕事に期待しているわ」


 アルドが下がると、マクライがなにか言いたそうにわたしの前に立った。


「お金の使いすぎと言いたいのでしょう?」


 十五の小娘が金貨五枚をポンと出すなど暴挙でしょうからね。


「これは、領地の商売を盛り上げるためのものでもあるのよ。あなたなら領地の内情がわかっているのでしょう?」


 可もなく不可もなく、豊かな領地ではあるけれど、それは農作物が豊かであって、商売が豊かと言うわけではないわ。


 領都の人口も五千人と少なく、商会も数えるだけ。その規模は王都の小店と同じくらい。職人も毎日仕事があるわけじゃない。生きていくのがやっとだと、マゴットが言ってたわ。


「お金は高いところから低いところに流れ、やがて領主の元へ帰ってくるわ。わたしはお金を降らせているのよ」


 マクライにどこまで理解できるかはわからないけど、今は予算に余裕があり、ちゃんと給金を払っている。もう少し、わたしのやることを見守っててちょうだいと、マクライの目を見て語った。


「……わかりました。お嬢様のお言葉を信じます」


「ありがとう。マクライが信じてくれたら百人力だわ」


 にっこり笑って見せた。わたしは、自ら動けない立場。誰かに動いてもらわないとなにもできない。わたしの手足となってくれる人には味方でいてもらいたい。売れる媚ならいくらでも売るわ。


「あ、そうそう。壺が欲しいのだけれど、手に入れられないかしら?」


「壺、でごさいますか?」


 棚に並ぶたくさんの壺に目をやるマクライ。お嬢様は壺集めが趣味なんだろうか? と思っているでしょうね。


「ええ。壺よ。可能かしら?」


「少し時間をいただければ王都から商人を呼び寄せますが」


「お願い。珍しい壺があれば高値で買うわ」


 その頃には指輪ライターチャッカの売上も入るはず。有名な作品でもなければ買えるはずだわ。


 一礼してマクライが下がったら、棚の壺──創造と錬金、わたしの欲望を叶えてくれるパンドラの壺に魔力を送った。

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