384 王都セシリーン 下
大通りを進んでいると、王妃様に気がついた者たちが手を振ってきた。
「……あなたはこれを予想していたの……?」
「予想というより想定の一つとしては読んでましたね。さあ、民に手を振って応えてあげてください。王妃が健在であることを示すために」
オープン式にしたのは天気のいい日に景色を見るためだけど、王妃様が王都に帰るなら絶対大通りを通るし、立派な馬車が何台も列になればなんだと思うもの。気づかれたときのために王妃様にはしっかりと化粧をしてもらった。
別に気づかれなくともお城に上がるならちゃんと化粧していて損はない。お城で働く者たちにも姿を見せなくちゃならないんだからね。
歓声が伝播したかのようにお城に近づくに連れて人が多くなる。
……民に愛された王妃なのね……。
どんなことをすればこんなに人気になるのやら。コルディーで国王夫妻がパレードしたってこんなに人は集まらなかったわよ。
「騎士を呼ぶんでしたね」
うちの騎士が馬車の左右と背後についているとは言え、王妃様を護衛するには少なすぎる。せめて騎士団に要請するよう言っておくんだったわ。
「タルル様。こちらにきてください」
どこかにいるタルル様に呼びかけると、すぐに現れてくれた。
……どんな耳を持っているのやら……。
「タルル様は民に知られているのですか?」
「子供でも知っているくらいには知られているな」
「では、少々派手なことをしても問題ありませんね?」
「お前の少々は当てにはできんが、まあ、多少なら派手にしても構わないぞ」
それはよかった。
派手なことはしたくないけど、コルディアム・ライダルス王国が友好国であることを知らしめておく必要がある。国交を結ぶ日のために、ね。
タルル様に頭に乗ってもらい、グリムワールを出した。
「落ちないでくださいませ」
立ち上がり、御者台の上に昇った。
グリムワールを振り上げ、収納していた梅の花びらを出して宙に舞い散らした。
風でさらに舞わせ、妖精の幻影をたくさん創り出した。
そして、旅芸人一座に奏でてもらった音楽を再生させた。
突然のことに王都の民はさらに盛り上がり、歓声が結界を揺るがした。
「やはり多少でもなかったな」
「本当なら花火を打ち上げたいところでした」
残念ながらまだ完成はしてないのよね。我に時間と魔力をいただきたい、ってところよ。
「片付けが大変そうだな」
「ご安心を。すぐに消えるよう付与魔法を施してありますから」
王都の民に邪魔だな! とか思われたら本末転倒。ちゃんと付与魔法は施しておりますよ。
お城まであと少し。梅の花びらを舞い散らし、妖精たちを踊らせた。




