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令嬢ではあるけれど、悪役でもなくヒロインでもない、モブなTSお嬢様のスローライフストーリー(建前)  作者: タカハシあん
第1章

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38 バレテーラ

 昼前にマゴットたちがやってきた。


 館から城まで約半日。朝の六時に出れば昼には着ける距離だ。今着いたってことはまだ暗いうちに発ったってこと。昨日のうちに用意したってことだわ。


「ご苦労様。疲れたでしょう。まずは休みなさい。食事は持ってきた?」


「ああ。馬車の一つを厨房車にしたから問題ないよ」


 そう言えば、そんなことも教えたわね。水が溜まる壺と熱を発する壺、あと、冷蔵箱も渡してあったし。


「それに、ガイルやレイからも料理を渡されたから勝手にやるよ」


「じゃあ、昼食が終わったら荷物を降ろしてちょうだい。ラグラナ、マーナも食べちゃいなさい。ランも。昼食が終わったらまたくるわ」


 わたしは城の食堂でいただくことになっているのでそちらに向かう。


 食堂には叔父様、叔母様、ナジェス、そして、従妹のレアナが揃っていた。


「遅れて申し訳ありません」


 謝罪して席につき、叔父様たちとお祈りをして昼食をいただいた。


 食べている間はおしゃべり厳禁、とはならない。なにかの会でもないのだからそこまで厳しくはない。ちょっとしたおしゃべりはよき家庭を作るものなのよ。


「お姉様。いつまでいられるの?」


 除け者にされていたレアナが真っ先に尋ねてきた。


 八歳というおしゃまな年齢だからか周りの空気などなんのその。張り裂けんばかりの笑顔を見せているわ。


「レアナ、落ち着きなさい。そんなに大声を出されたらチェレミーが戸惑ってしまうでしょう」


「だって、お姉様がきてくれるの久しぶりなんですもの。おしゃべりしたいです」


 わたしに妹萌えはないけど、可愛い子が懐いてくれるのは素直に嬉しいもの。拗ねるレアナが可愛くて仕方がないわ。


「あと二日か三日はいるわ。今日の夜は一緒に寝ましょうか?」


「はい! 約束ですよ!」


「約束よ。だから今は昼食を食べましょうね。ナジェスはお腹が空いているからって食べすぎはダメよ。ゆっくり噛んで食べること」


「は、はい。わかりました」


 ハニカムように笑うナジェス。


 ショタ好きなら悶えているでしょうが、わたしはおっぱい至上主義者。おっぱい党を創ってジークおっぱい! ハイルおっぱい! と叫びたいわ。


「叔父様。午後からお時間よろしいですか?」


「ああ。お前のお抱えがきたそうだな」


「はい。バナリアッテで仕入れたものを持ってきたのでお渡ししますね」


 この時代、貴族へ心づけ的なものを送るのは悪いことじゃない。どちらかと言えば貴族と商人を繋ぐものとして必要なものだとされているみたいよ。


 前世の記憶があるから戸惑うけど、あるのなら利用するまで。わたしのスローライフを豊かにするためにね。


 昼食を終えたら叔母様の指輪に浄化小の付与を施し、城にいる侍女とメイドに嵌めてもらって浄化をやってもらうよう指示を出した。


 それが終わればマゴットを叔父様の部屋に呼んだ。献上する品も一緒にね。


「マゴットと申します。チェレミー様によくしてもらっております。こちらをお納めください」


「うむ。チェレミーが世話になっている。これからもチェレミーをよろしく頼むぞ」


「は、はい。微力ながらチェレミー様を支えて参ります」


 緊張しながらも行儀よくするマゴット。もっと慣れていかないとダメね。


「叔父様。マゴットのために城の倉庫を一つお貸し願えませんか? 麦を入れておきたいのです」


「よかろう。チェレミーが世話になっている者だ。無下にはできんからな」


「ありがとうございます。館の倉庫がいっぱいで本当に困ってたんですよ」


「……備蓄がどうこう言ってたが、どう言うことなのだ?」


 帝国が豆を買い占めていることや、貴族たちが畑を潰して豆を作ろうとしていることを語った。


「その話は聞いている。我が領でも豆を作ってはどうかと陳情されているな」


「止めておくべきだと進言します。それは帝国の策謀なので」


「……お前が言うと笑えんから困るよ……」


 なぜかお父様より叔父様からの評価が高いのよね、わたしって。やはり流行り病のことが影響しているのかしらね?


「笑ってくれても構いませんよ。小娘の戯れ言。捨て置いても誰も笑いませんわ」


「できるわけなかろう。お前は病が流行る前から行動を起こし、他領が苦労しているときに我が領は難なく乗り越えたのだからな」


 あれは単なる偶然なんだけどね。ミサンガを処分するのに困ってただけだし。


「それに、お前は人心掌握に長けている。城にきたときは必ずメイドや兵士、下男下女どころかその家族まで調べているのは知っているぞ。昨日もマルセオたちを集めてなにかしていただろう?」


 あら、バレテーラ。


「ふふ。叔父様に隠し事はできませんね」


「隠したりせず言ってくれると助かる。兄上から預かっているのだ。なにかあったら申し訳が立たんからな」


 お父様はいい弟を持ったわよね。跡目相続で揉めるところもあるっていうのに。


「なにかあれば手紙を出します。どうするかは叔父様の判断にお任せします」


 決定権は叔父様にある。それを侵害することはできないしね。まぁ、必要なら誘導はするけど。


「そうしてくれ。で、麦を集めているということは不足になるのか?」


「はっきりとそうだとは言えませんが、集めていて損はないと思いますよ。わたしはそれで儲けようと考えておりますわ」


「……危険はないのか?」


「あります。帝国の回し者と思われちゃうかも、ですね」


「なにか手を打っているのか?」


「お妃様のご実家に麦を貯めておくことを進言しました。わたしの進言を聞き入れてくれるならお妃様はこちらの後ろ盾となってくださるでしょう」


 シェイプアップアイテムを送ったついでに進言書をしたためておいた。効果があるならわたしの進言も聞いてくださるでしょうよ。


「……それは、貴族派に入ることを意味しているぞ……」


「まあ、可もなく不可もなく、極々普通の伯爵家。派閥に入ったところでなんとも思われませんよ」


 後ろ盾になってくれるなら派閥に入るのもいいでしょう。カルディム家としてね。わたしは王宮派に入れられているでしょうがね……。

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そんなもの、中立派閥を立ち上げて「帝国の裏工作を暴くために貴族派と王宮派が協力せずにどうする。」と啖呵を切りましょう。
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